なぜ厚労省の責任を追及しないのか
ここで気になるのが、厚労省の停止命令を単に「当然である」と言い切っている点である。本来なら今回のような事件が起きないよう、きちんと事前にルール作りしておく責任が厚労省にはあったはずだ。そこをなぜ読売社説は厳しく追及し、ルール作りの必要性を訴えないのか。
その点について読売社説は次のように言及する。
「今回、投与されたさい帯血は、経営破綻した民間バンクから流出したものだ。販売会社が入手し、院長らに転売されていた」
「民間バンクは、保管料を受け取って、さい帯血を預かるビジネスだ。子供が将来、病気になった時に備えて、保管しておくケースが多いと言われる」
「問題は、民間バンクが法規制の対象外であることだ。経営が破綻した時に、預かっていたさい帯血をどのように取り扱うのか、といったルールも存在しない」
「法規制の対象外」「ルールも存在しない」と書くのであれば、厚労省が法規制の対象外にしたことやルールを作らなかったことについて、厳しく追及すべきではないか。それが本来の社説の姿であると沙鴎一歩は思う。
朝日社説は読売社説より多少マシ
その点、朝日新聞の社説(8月29日付)は「捜査を通じて実態の解明を期待したい。そしていまの仕組みを点検し、新たなルールも検討するべきだ」と書き出し、読売新聞に比べ、理解できる。
朝日社説は「臍帯血には血液のもとになる幹細胞が含まれ、白血病などの治療で使われる。そのために、法律に基づく公的バンクが全国6カ所にあり、産婦から無償で臍帯血が提供されている」と説明し、さらに「今回、逮捕された医師が使ったのは、個人から有料で臍帯血を預かり、本人や家族のために保管する営利目的の『民間バンク』の一つが経営破綻し、そこから流出したものだ」と解説する。
そのうえで「民間バンクは規制の対象外で、事実上野放しにされてきた。厚生労働省は、4都府県の12医療機関で無届け治療が行われていたと明らかにしているが、臍帯血の流通の全容はわかっていない」と指摘する。
そして朝日社説はこう主張する。
「民間バンクの実態について、厚労省は全国の産科施設から聞き取り調査を進めている。事件の捜査結果も踏まえて、民間バンクの運営や臍帯血の取り扱いに関するルールを明確にする必要がある」
「民間バンクは事実上、野放し状態」
毎日新聞の社説(8月29日付)は「金もうけのため、患者の期待につけ込んだ悪質商法の疑いが強い。さい帯血の保管状況も悪く患者を感染症の危険にさらした可能性もある」と書く。
「民間バンクのさい帯血は、主に子どもが将来病気になった時に備えるもので、提供者の信頼も裏切った」とも批判する。
さらに毎日社説は再生医療安全性確保法について分かりやすく筆を進めながら民間バンクの規制に触れる。
「再生医療安全性確保法による摘発は初めてだ。安全性などの検証が不十分な医療行為が、再生医療と称して自由診療で実施されていたことに歯止めをかけるため制定され、14年に施行された。再生医療を危険性の順に3区分し、治療計画を国に届け出ることを医師に義務づけた」
「巨額の利益に直結するさい帯血事業に民間人が目をつけた事件の背景を踏まえれば、民間バンクの規制そのものが課題になる。妊婦が無償提供するさい帯血を保存する公的バンクの事業は許可制で、厳重な品質管理が義務づけられる。一方、民間バンクは事実上、野放し状態になってきた」
最後に毎日社説はこう訴える。
「厚労省は民間バンクの実態調査を始めたが、許可制などによる監視強化に直ちに取り組むべきだ」
「さい帯血以外の幹細胞についても悪用の懸念はないだろうか。こうした行為を放置すれば、再生医療への信頼にも影響を及ぼしかねない」
「監視強化」「さい帯血以外の幹細胞」……。毎日社説の主張には賛同するが、どのようにして民間バンクを規制し、監視していくのか。社説としてもう少し突っ込んだ主張がほしい。