脳の状態が80歳から23歳に
そうならないために、青柳氏が提案するのが、40代からの予防だ。超多忙なビジネスマンの、とかく乱れがちな生活習慣、とりわけ運動や睡眠の見直しが効果的な対策につながる。
「近年の医学研究で身体と脳、より具体的にいえば歩行と認知機能には深いつながりがあることが証明されています。おそらく、脳の高度な機能というと記憶力や計算を思い浮かべるでしょう。しかし、身体を動かすことも、脳を使う活動なのです。なかでも、周囲の安全に注意しながら歩くという行為では、脳内で高度な情報処理が行われます」(青柳氏)
だから、歩くことが脳を刺激し、認知症の最大の予防策になる。青柳氏が取材した米国・イリノイ大学ベックマン研究所のアート・クレーマー教授の研究成果は注目に値する。高齢者に1年間、さまざまな運動を体験してもらった。
その結果、歩行を続けた人では、脳が80歳の老人から23歳の若者の状態になった。
青柳氏の問いかけに対し、クレーマー教授は「1回1時間程度のウオーキングを週3回。それを1年間継続しただけです。運動量は特に多いわけではありません。ただし、歩き方に条件があります。早歩き、息が少し上がる程度です」と答えたという。
通常、脳の活動は加齢とともに衰えていく。けれども、こうした適度な運動をすることで改善できるのだ。
また、記憶をつかさどる脳の器官で、年をとるにつれて縮小していくはずの海馬が、早歩きを励行することによって大きくなることも明らかになったのである。
「負荷のかかる運動はすべて、身体と脳にプラスに作用します。通勤や仕事のなかで工夫をして、運動量というより活動量を増やすことが大切です。駅ではエスカレーターではなく階段を使い、会社に着いてもエレベーターに乗らなければ、いい運動になります。海外へ取材に行くと、ドクターたちは椅子に座らず、立ってデスクワークをしていました」