トランプ大統領は重要発言を「大安売り」

今回の双方の強硬発言は8月8日、国防総省傘下の国防情報局(DIA)の「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)に搭載可能な小型核弾頭の開発に成功した」との分析が報じられ、トランプ大統領が記者団を前に「世界がこれまで目にしたことのない炎と憤怒に直面することになる」と北朝鮮を牽制したのが発端だった。

対する北朝鮮の朝鮮中央通信が10日に「中・長距離戦略弾道ロケット『火星12』型の4発同時発射で行うグアム包囲射撃を慎重に検討している」と応じた。

しかし、北朝鮮の弾道ミサイルがグアムを標的としていることは、北朝鮮側がわざわざ明かさなくとも、至極当然のことである。まさかとは思うが、トランプ大統領は、これまで北朝鮮の弾道ミサイルの射程距離に関して報告を受けていなかったのだろうか。

筆者は北朝鮮を擁護するつもりはない。しかし、両国はもはやブラフにブラフで応酬する形になっており、言葉上どこに真意があるのか分からなくなっている。

トランプ大統領はツイッターなどで強硬発言を乱発しているが、米国の歴代大統領でこれほど重要な発言を「安売り」した大統領はいないだろう。国家レベルの意思決定が必要な事項について、大統領がツイッターで「個人的に」発信するのは問題があるのではないだろうか。

「戦費」をどのように確保するのか

そもそも、本当に武力行使に踏み切るのなら日本や韓国へ事前に通告があるだろう。米国が武力行使した場合は、北朝鮮から日本への報復攻撃が予想されるため、対応策を決定するための閣議を開かなければならない。

閣議を開けば、その内容は記者会見で明らかにされるだろうから、武力行使の可能性については一般国民にも明確に伝わる。つまり、日本政府が公式に発表しないかぎり、米国による先制攻撃はないといえる。

仮に、政府が全てを秘密裏に進めたとしても、陸上自衛隊は原発などの重要防護施設の警備、海上自衛隊は艦艇の緊急出港、航空自衛隊は迎撃ミサイル部隊の展開など、自衛隊全体で様々な動きがあるため、国民の目をごまかすことは不可能である。

トランプ大統領と北朝鮮の強硬発言の応酬は今後も続くだろう。ここまで述べた言葉の応酬だけならタダ同然なのだが、より現実的な問題として、米国が北朝鮮を攻撃する場合の費用、すなわち「戦費」をどのように確保するのかが問題となる。

戦争の行方は、国益とコストのバランスで決まるといってもいいだろう。国益に見合ううちは戦争を続けることが出来るが、コストがかさんだ場合は早期に終結させなければならない。

米国にとって北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や核兵器が脅威なのは間違いないが、戦争に必要なコストと、金正恩政権崩壊後の政治的なリスクを考慮した場合、米国の国益とのバランスはとれるのだろうか。

北朝鮮に関する報道は、確たる情報が少ないのをいいことに、客観的事実に基づかない「イメージ」が先行する傾向にある。今春の「危機」でも、結果的に多くの専門家やジャーナリストが脅威を煽っただけで、何事もなかったかのように終結した。

今回の「危機」も、過去の「危機」と比較すると、それほど危険度が高いわけではない。結局、今回も何事もなかったかのように過ぎ去るだろう。

宮田敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2008年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。著書に「北朝鮮恐るべき特殊機関」(潮書房光人社)がある。
(写真=時事通信フォト)
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