対米非難が「減った」年があった
「グアム攻撃計画を策定する」と伝えられる現在の北朝鮮の危険度は、実際はどの程度のものなのだろうか。手がかりとなるのは、これまで繰り返されてきた数々の“強硬発言”とその時の状況である。本稿では、過去5年のUFG演習にともなう北朝鮮の主な強硬発言をまとめることで、今回の“危機”の本当の危険度をみていきたい。
2016年:「決戦準備」を常時堅持
昨年(2016年)は、8月22日に朝鮮人民軍総参謀部が「われわれの領土、領海、領空に対するわずかな侵略の兆候でも見せれば、先制核攻撃を容赦なく浴びせる」「軍第1次攻撃連合部隊が、演習に投入された全ての敵の攻撃集団に先制的な報復攻撃を加えられるよう、決戦態勢を常時堅持している」とする報道官声明を発表している。
声明の2日後(2016年8月24日)に北朝鮮東部の咸鏡南道新浦(シンポ)付近の日本海で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射している。
2015年:北朝鮮が「準戦時状態」を発令
2015年は、北朝鮮外務省が8月21日に声明を発表し、朝鮮人民軍総参謀部が平壌時間20日午後5時に韓国国防部(国防省)に対して、「48時間以内に拡声器を使った宣伝放送を中止し、すべての心理戦の手段を撤去しなければ、軍事行動に出る」と通告した。
さらに北朝鮮外務省は、「わが軍と人民は単純な対応や報復ではなく、人民が選択した制度を命懸けで守るため、全面戦も辞さない」という声明も発表している。この時は、北朝鮮が南北軍事境界線付近の前線地帯で、開戦の前段階である「準戦時状態」に入ったと宣言したため、演習を一時中断して米韓両軍は厳戒態勢を敷いた。
2014年:韓国は「火の海になり灰となる」
2014年は、朝鮮人民軍総参謀部報道官が演習開始の前日(8月17日)に次のような声明を発表した。
「われわれが決心すれば、侵略の本拠地は火の海になり、灰になる」
「米国と南朝鮮が宣戦布告してきた以上、われわれのやり方の最も強力な先制攻撃が、任意の時刻に無慈悲に開始される」
「われわれの善意による全ての平和的提案に、危険な戦争演習で応えた米国と南朝鮮の行為は高い血の代価を払うことになる」
それから1週間後(8月14日)、北朝鮮東部の元山一帯から300ミリの新型多連装ロケット弾とみられる短距離の発射体3発が日本海に向けて発射された。北朝鮮はこの年は6月下旬以降、短距離ミサイルやロケット弾を日本海に繰り返し発射している。
2013年:南北合意締結で静観
例年と異なり、強硬発言がなかった。北朝鮮は開城(ケソン)工業団地の正常化合意や離散家族の再会に向けた議論などを優先し、激しい非難は避けている。
8月14日に開城工業団地の正常化で合意したほか、離散家族再会に向けた南北赤十字会談の23日開催を受け入れるなど、関係改善に向けた議論の進展を考慮し、静観の姿勢を示した。このように、相手が自国に利益をもたらす場合は、非難が減少する。
2012年:金正恩が作戦計画に最終署名
2012年8月25日、朝鮮半島東部の前線を視察中の金正恩が軍幹部らを集めた宴会で演説し、「この地で再び望まない戦争が起きれば、米国と南朝鮮(韓国)は破滅する」と述べている。
また、金正恩はUFG演習について、「砲弾が北朝鮮の領土・領海に及んだ場合、直ちに全面的な反撃に移行せよとの命令を全軍に発令し、作戦計画を検討し、最終署名した」と述べた。