北朝鮮を強く刺激しない単純な内容となる
北朝鮮はUFG演習を含む米韓合同演習については、演習の実施そのものが「北朝鮮への攻撃」と解釈しているようだ。これは、演習名目で米軍の兵力が韓国とその近海へ展開することが、最悪の場合、北朝鮮への侵攻につながる可能性があると考えているように思える。
今回のUFG演習に関してはどうか。これまでUFG演習直後に訓練に参加した空母は1隻だったが、今回は2隻展開することが予想されている。1個空母打撃群の艦艇は潜水艦を含む10隻前後だが、空母打撃群が日本海へ2個展開しての訓練は、北朝鮮を強く刺激しないような単純な内容となるだろう。
筆者は、北朝鮮の強硬発言は計算されたものであると考えている。過激な対米非難は米朝関係に影響を与えるため、指導部の意向に沿わない感情的な声明を勝手に発表するわけにはいかないからだ。
実際に北朝鮮が危険を感じた場合は、朝鮮労働党機関紙「労働新聞」から米国を名指しした記事が減少する傾向がある。このため、レベルを調節して強硬発言の応酬を続けているうちは、米軍による先制攻撃も北朝鮮軍による先制攻撃も行われない。ここ何日かの一連の発言も、その域を出ないと思われる。
「対米非難」がなくなると、むしろ危険
むしろ、これまでの傾向に反して、北朝鮮が米国に対する非難を一切行わなくなった場合のほうが危険だ。北朝鮮の指導部内で何らかの政治的な動きがあった可能性を意味するからだ。
過去の米朝関係を俯瞰してみると、米朝間の緊張状態は軍事面だけでなく外交面でも意図的に作られる傾向がある。こうした緊張状態の醸成には、強硬発言も寄与する。UFG演習にともない、今春のような強硬発言の応酬というチキンレースのような様相を呈したとしても、北朝鮮側は、米国が空母や戦略爆撃機などによる軍事的圧力を加えることはあっても、武力行使に踏み切ることはないと認識しているだろう。
今春の強硬発言をよく注意してみよう。いずれも「あらゆる挑発を我が軍隊と人民の超強硬対応で粉砕する」といったような、「米国が攻撃すれば、北朝鮮は反撃する」というものであった。つまり、米国が攻撃しなければ反撃しないということである。
南北定期協議(1994年3月16日)での北朝鮮の朴英朱首席代表による「ソウルはここから遠くない。もし戦争になればソウルは火の海になる。あなた方は生き残れないだろう」という、今もよく記憶されている発言は、むしろ例外といえよう。