……と、こんなことを説いていると、「どの口が言うんだ」と叱責する方もいらっしゃるでしょう。
そう、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』や、その続編『食い逃げされてもバイトは雇うな』、そして『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』といった私の一連の著作のタイトル自体、批判の対象になっています。
そもそも新書は「タイトル勝負」になりがちです。なぜなら、サイズとデザインが定型で金太郎飴のような大量生産品であるため、差別化するポイントがタイトルしかないからです。とはいえ、煽りタイトルの増加は出版界にとってマイナスだったと思います。
「タイトルも中身も大事」基本に立ち返る
さて、タイトルと言えば、自らタイトルに腐心し、また批判も頂いた経験を昇華させて、私は2009年に「日本タイトルだけ大賞」という賞を創設して、毎年審査員を務めています。この賞は、内容は無視してタイトルだけの面白さを評価するというものですが、これが2016年で第9回を迎えました。
「日本タイトルだけ大賞」受賞作一覧
第1回『ヘッテルとフエーテル』
第2回『スラムダンク孫子』
第3回『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』
第4回『月刊円周率 2月号』
第5回『仕事と私どっちが大事なのって言ってくれる彼女も仕事もない。』
第6回『妻が椎茸だったころ』
第7回『人間にとってスイカとは何か』
第8回『やさしく象にふまれたい』
第9回『パープル式部』
どうです、クスッと笑えるものが多いでしょう。しかし、どの本も残念ながらベストセラーではありません。悲しいですが、タイトルだけがよくても駄目ということの証左です。
一方で、最近さまざまに物議を醸した『夫のちんぽが入らない』(こだま著、扶桑社、2017年)のような本もあります。言葉にするのがためらわれる、このインパクト絶大なタイトルはネットを中心に大反響を呼び、発行部数は2017年6月時点で13万部を超えています。この本が売れた理由は決してタイトルだけではありません。「実話」をもとにした説得力と話の面白さが読者をひきつけるからです。
しかし仮にこの私小説がもっと真面目なタイトルだったらどうでしょう。注目を浴びず版を重ねることはなかったかもしれません。
タイトルだけでも駄目、中身だけでも駄目。
タイトルインパクトブームを経たいま、出版業界には両者を兼ね備えることが求められています。