ブームは続くものの売れ筋本には変化あり
2010年の『超訳 ニーチェの言葉』刊行以来、言葉や話し方をテーマにした本のブームは息長く続いている。出版コンサルタントとして長年ビジネス書を研究してきた立場から見ると、売れ筋本には、世の中の流れや思潮が反映されている。
最大のポイントは、SNSに象徴されるコミュニケーションスタイルの変化にある。少し前ならコミュニケーションをテーマにしたビジネス書のほとんどは、それを「目的を達成するための手段」として扱っていた。だが今は、そこにいるみんなが楽しみ満足できるような「いいコミュニケーションを培うことそのものが目的」となっている。
自由なコラボレーションから新しいビジネスが立ち上がるこの時代にあって、一流のビジネスパーソンほど、打算や下心が見える言葉や話し方を嫌う。利害抜きで面白い、一緒に何かやってみたい信頼できる人物と、あなた自身が見なされることはきわめて重要だ。そこで問われるのは、利害のからまない雑談の上手さや、高い所からではなく共感を通じて志を伝える能力である。
そうしたコミュニケーション能力を磨くために、役に立ちそうな本をいくつか紹介してみたい。
まずお勧めしたいのは、『“トークの帝王”ラリー・キングの伝え方の極意』だ。アメリカの人気トーク番組『ラリー・キング・ライブ』の司会者として、ニクソン以降のすべてのアメリカ大統領、さらにネルソン・マンデラからレディー・ガガに至る4万人以上の有名人にインタビューを行った、カリスマ的話し手の自著である。
綺羅星のような極上のゲストたちのトークを実例として紹介しながら、「達人は『独自のものの見方』をする」「達人は『他人から学ぶ努力』をする」など、キング自身が考える話の極意を体系立てて整理していく。登場するエピソードの面白さは折り紙つき。何よりも読んでいて勇気が湧いてくる。
次にあげたいのが、『決定版 田中角栄名語録』。人心掌握の天才といわれた大政治家の発言集である。
角栄氏関連の書籍は最近ちょっとしたブームだが、先のキング氏の本同様、本人の言葉に触れられるところに価値がある。(二世議員や官僚に話しかけるとき)「君の親父さんはね、こういう男だった」「男が恥を忍んで頭を下げてきたらできるだけのことはしてやるものだ」など、腹にずしりと来る「本物の言葉」がぎっしり。今の世の中で必要とされる、心をつかむ話し方の、圧倒的な手本といえる。