提携内容は大きく4つ
そういうスタンスの中で互いにできることの限界を見定めつつ作り上げられた提携内容は以下の4点である。
1. 米国における完成車の生産合弁会社の設立
2. 電気自動車の共同開発
3. コネクティッド・先進安全技術を含む、次世代の領域での協業
4. 商品補完の拡充
特に1は興味深い。自動車の生産ラインはトップシークレットの塊である。それを合弁で行えば、競争力の源泉の一部が筒抜けになる。その高いリスクをよくぞ乗り越えたものだと思う。信頼関係が無ければ成り立たない話だ。そしてそれに対する保証として、相互の株式保有が行われる。
今回、総額500億円の株式を取得しあうことが決まった。これは今回の提携の深さを象徴的に表すものだ。トヨタはダイハツに対してもスバルに対しても、提携先の株式は一方的に取得しており、提携先に株式を取得させたことはない。異例の事態だと言える。
互いに技術に自信を持つ2つのメーカーが、「負け嫌い」をポジティブに生かしながら、時にライバルとして時に同志として活動していく約束。それが今回の提携である。
トヨタはGoogleやAppleをどう見ているのか
注目したいのは、特に自動運転の領域での新たなプレイヤーの参画に対する豊田社長の発言だ。
「今、私たちの前には、GoogleやApple、Amazonと言った新しいプレイヤーが登場しております。全く新しい業態のプレイヤーが、『未来のモビリティ社会をよくしたい』という情熱を持って私たちの目の前に現れているのです。未来は決して私たち自動車会社だけで作れるものではありません。物事を対立軸で捉えるのではなく、新しい仲間を広く求め、競争し、協力し合っていくことが大切になってきていると思います。しかし、これまでのモビリティ社会の主役は、間違いなくクルマであったと思います。私たち自動車会社にはこれまで、モビリティ社会を支えてきたという自負があります。新しいプレイヤーと競い合い、協力しあいながら、未来のモビリティ社会を作っていくからこそ、私たち自動車会社は、『とことんクルマにこだわらなくてはならない』と思います。今の私たちに求められているものは、全ての自動車会社の原点とも言える『もっといいクルマを作りたい』という情熱だと思います」
「もっといいクルマ」というキーワードに表されるものこそ、群雄割拠する新時代のモビリティの世界において、自動車メーカーが持つアドバンテージだと考えていることがわかる。筆者も大いに賛成だ。モーターとバッテリーさえあればクルマが作れるわけではない。「走る・曲がる・止まる」を高次元で行うこと、つまりビークルダイナミクスの実現は生やさしいものではない。「電気自動車は部品点数が減ってコモディティ化する」ということを言う人が絶えないが、そんな風にコモディティ化したクルマなど、誰も欲しくない。
現実は、84年間クルマを作って来たトヨタが「もっといいクルマづくり」を掲げなくてはならない状況だ。100周年を目前にしたマツダも事情は同じ。マツダのエンジニアも役員も、常に「ウチのクルマ、まだまだです」と言い続けている。「そういう気概でクルマを作っていかなくてはならない」その思いこそが豊田社長に「クルマを愛する仲間を得た」と言わせているのである。
トヨタとマツダの提携は、新しいモビリティ社会の実現に向けた「自動車を愛する者連合」の旗揚げだ。筆者の目には、そう映っている。