「日本、そりゃ過労死するわ」

フランスはスイスと対照的で、鉄道は平気で2カ月ストをするし、街にゴミは散らかり放題だし、社会のあちこちに移民も非常に多い。中流階級というか、普通の人々が行くようなちょっといい店も入っている郊外のショッピングモールでさえ、トイレの便座は軒並み盗まれたままになっていた。日本ではまず見かけないが、大陸欧州ではホームセンターなどでトイレの便座だけを売っている。模様替え感覚なのか、あるいは頻繁に割れるとかで、なぜか顕著にフランスではトイレの便座が盗みの対象になるのだが、「どうせまた盗まれるから」と便座のない公衆トイレはとても多かった。それもまた一つの「サービス」のあり方である。

スイス・フランス・ドイツ・イタリアなど、大陸欧州のカトリック国は基本的に日曜の安息日には働くべきではないとしているため、特にスイスなどではどんな大きな街でも日曜の街は息を潜めて静まり返る。消費活動に関わるサービスが完全にストップするのだ。そういう感覚に慣れると、一時帰国した日本でそこかしこにある24時間毎日営業のコンビニを見るたびに「トゥーマッチ」「まさに日本のガラパゴス進化」「24時間営業の過剰サービスを先に供給することによって、国民にその需要ができて異常進化を続けてしまった末路」「そりゃKaroshi(過労死)するわ」などと思うのだった。

英国のロンドンに移ってから、大手スーパーの24時間コンビニ業態の店が普通にあるのを見て「そうか、カトリックじゃなくてプロテスタントだからもう街全体が眠る日曜日はないんだ。日曜に備えて週末の食料を買い込まなくていいんだ」とホッとしたのは否定しない。でも、やはりそういった労働は主に移民や、低所得者層の英国人によって担われており、英国では失業率や賃金の問題が常に社会問題となっていたことも事実だ。

本来、「人」の手で提供されるサービスは有料

「人」によって提供されるサービスは有料である。有料だから、サービスの良しあしに値段がつく。でも日本では、例えば国外の感覚なら最も低級のサービスしか期待できないだろうコンビニでさえ、「日本人の感覚では当然」にこやかで迅速なサービスが提供される。

どこに行っても礼儀正しく空気を読んで気遣いができて効率的にお釣りを渡せるのが「基本」として期待される日本人のサービス。その価格はいかほどか? その価値は、いつのまにか日本人社会自体から買いたたかれていないか?

日本の過重労働の温床とは「過剰なサービス社会」そのものだという認識は、海外生活を経験したことのある人には比較的共有されており、どこかで日本はドライになっていいし、なるべきなのにという思いを持つ人も多い。海外メディアでKaroshi(過労死)という言葉につく”Death attributed to overwork”(働きすぎに起因する死)との注釈には、「働きすぎが原因で死んじゃうんだぜ? なんでそこまで働くの? 信じらんねーだろ?」といったニュアンスが含まれる。

サービス効率や迅速な対応よりも、礼儀正しさのほうが大事?

アメリカン・エキスプレス・インターナショナルによる「世界9市場で聞く<顧客サービスについての意識調査>」を見ると、各国のサービス観の違いが浮き彫りになっている。「購入先の変更を検討する前に、何回までならひどい顧客サービスを我慢できるか」との問いに「一度でもひどい顧客サービスを受けたら直ちに別の会社に替える」と答えた日本人は56%、他の8カ国がみな20%から30%を示す中で1国だけダントツに高い。

 

しかも、日常で受けるサービス全般に対して、”日本は「期待を上回る顧客サービスを受けている」(4%)と「期待通り」(41%)を合わせた割合が45%と半数を割り、9市場中で群を抜いて低い結果”(同調査より)を見せており、日本人のお客さまは海外から見れば既に「やりすぎ」の感さえある現行の国内サービスに対してさえもまだご不満でいらっしゃるのだ。恐ろしい! お客さまはどんだけ神様なのか、日本。

 

さらにさらに、”顧客サービス担当者に求める態度として、日本、イタリアを除く7市場では「効率を重んじること」が最も多く選ばれ、イタリアでは1人の担当者が問題を解決できる「十分な権限を有する」(42%)が1位となるなど、総じて効率が重視される結果となる中、日本だけは「礼儀正しい」(28%)が最も重要視されている”(同調査より)。「サービス効率や迅速な対応よりも礼儀正しさの方が大事」って、なんだか日本だけベクトルが特異じゃない?

 

それならその分、日本のお客さまは独自の確固たるサービス選択眼やサービスの何たるかへの信条を持っているのかと思いきや。

”新しい購入を決定する際に、決め手となる基準として、日本、インド、メキシコでは「企業の評判」を最重要視する人が多く(中略)日本市場での第2位は「オンライン・ソーシャルメディアの口コミ」(20%)で、1位の「企業の評判」(35%)と合わせると55%になり、過半数の人が「評判」や「口コミ」といった、社会や第三者の評価を購入決定の際に基準にしていることがわかりました。”

 

社会や第三者の評価が基準とは……またここでも日本人の大好きな「世間の評判」、「同調圧力」の登場である。