手続き的非良心性の理論は、交渉では、相手に対してフェアにふるまわねばならないということを意味している。交渉が決裂した場合の相手の代替案が弱いときは、どんな合意であれ合意することが大切であることを相手にわからせてやるべきだと、多くの交渉専門家がアドバイスしている。手続き的非良心性は、交渉を決裂させるぞ、と相手に脅しをかけることは避けるべきだということを示唆している。
実体的非良心性に関しては、当事者間の関係が不平等と思われる場合には、「両当事者は、合意された条項が正当であることを明記し、かつ了解する」という1文など、正当性の問題に明確に言及した文言を契約書に盛り込むようにするとよい。裁判所にはそうした文言に注意を払う義務はないが、実体的非良心性の問題が争点になった場合にはこれが役立つことがある。
(2)契約書から暗黙の条件を読み取る
弱い側を守る方法として、裁判所は、契約の中に追加条件が暗に含まれていると判断したり、受認者義務という判例法の概念を拡大したりすることがある。40年代後半にカリフォルニア州でリネン・サプライ事業を始めたペイジ兄弟の有名な裁判を考えてみよう。兄と弟は共同会社に同額を出資していたが、兄が事業を取り仕切っていた。事業は数年間低迷し、赤字だった。あるとき、近くに空軍基地が建設されるという素晴らしいニュースがとびこんできた。
彼らが大成功しようとしていたちょうどそのとき、兄ペイジはパートナーシップを解散して単独でやっていくことにした。兄ペイジは自分にはパートナーシップを解散する権利があると思っていたが、州の1審裁判所は、この契約に「暗に含まれている条件」により、会社が黒字になるまでは兄ペイジは解散できないとする判決を下した。カリフォルニア州最高裁判所は一審裁判所の判決をくつがえしたが、一審同様、兄ペイジのパートナーシップを解散する権利は弟に対する受認者義務によって制約されるとした。
予告なしに解散する権利がなかったなら、兄はそもそも弟と共同で事業を始めていなかったはずだ、という反論もあるかもしれない。それでもなお、一審裁判所も州最高裁も、完全に優位にいる側から弱い側を守ることが適切だと判断したのである。契約交渉を行う際には、裁判所は暗黙の条件や受認者義務といった自在に拡大できる概念をかなりの裁量を持って使えるということを忘れてはならない。一方で、不測の事態について徹底的に検討するとともに、「解散権」などの概念を明記することで、この裁量を最小限に抑えることができる。