経営者の個人的な不祥事はどこまで許される?

2022年を振り返ると、「経営者個人の不祥事」が、主なものだけで11件もマスコミをにぎわしており、明らかに増えています。なかでも9月21日、上場企業でアウトドア用品メーカーの「スノーピーク」が出した、山井梨沙社長が「既婚男性との交際及び妊娠を理由として」「辞任」したとのリリースは、週刊誌等にも報じられているわけではない、プライベートの不適切行為を自ら公表したうえでの辞任であり、企業関係者に衝撃を与えました。

夜の繁華街で手をつないで歩く男女の後ろ姿
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

経営者の個人的不祥事への企業の対応は、企業コンプライアンスにおける喫緊の課題の一つになっていると思われ、当事務所も、企業のコンプライアンス担当者から問い合わせを受けることが多くなっています。そこで今回、スノーピークの経営者個人の不倫による辞任の問題を、他社事例との比較を通じ、感情論抜きに、企業コンプライアンスの観点から検討し、企業として望ましい対応を考えようと思います。

そもそも不倫は犯罪ではないが…

スノーピークは、辞任した山井梨沙氏の父・山井太氏が長年経営し、全商品永久保証制度、会員制度によるファンの囲い込みなどにより、“スノーピーカー”と呼ばれるヘビーユーザーを増やし、業績を拡大した会社です。梨沙氏が入社したのは12年でしたが、20年には32歳の若さで社長に就任します。

梨沙氏は、アパレル事業など多角化に挑み、また、不登校の過去やタトゥーも隠さない信念の強い女性で、「世界で一番クリエイティブな会社」を目指し、リーダーシップを発揮していました。父のような経営手腕を買われる、というよりは、そのセンスや信念などから、若手女性経営者として、テレビ出演や本の執筆などを通じ、広告塔としての役割を果たしていたといえます。

大前提として、不倫は犯罪ではありません。不倫をされた配偶者との関係では、「婚姻共同生活の平和の維持」という権利・利益を侵害されたのであれば損害賠償請求の対象となり、その意味では不法行為であり違法です。しかし不倫を禁じる法律はありませんし、不倫をしても、婚姻破綻の程度などにより、必ずしも賠償が認められない場合もあります。

不倫が許されない、というのは、社会との関係においては、法令の問題ではなく、倫理、道徳、常識などとの関係の問題になります。