しかし、通常の不祥事の情報と異なり、本件は「不倫」の事実です。経営者の不倫は単なるプライベートではないのですが、一方で、プライベート、プライバシーに密接に関わる事実であることも否定はできません。こうした事実を積極的に公表するということは、その後のハレーション、例えば、面白おかしく、尾ひれがついて拡散され、本人や企業イメージが大きく傷つくこと、など公表により生じる事態も十分検討し、慎重に判断しなければならないのです。
報道が予告されていればやむを得ないが…
これまでお話したとおり、少なくとも2022年時点において、経営者の不倫は、企業コンプライアンス上は“不適切な行為”ではありますが、“社会的に許容されない”ほど許されない行為でもありません。企業にとって、不倫の事実を情報開示すべき義務はなく、情報開示が起こすハレーションを考慮し、慎重に判断すべきです。
実際、スノーピークでは、積極的な情報開示が裏目に出て、会社へのアンチコメントや、梨沙氏への個人攻撃などがネット上で急増し、結果9月24日には、こうしたコメントに法的措置を示唆する強硬な姿勢を示します。
仮に、不倫について週刊誌の報道が予告されていた、との一部報道通りであれば、やむを得ない開示といえますが、そうした動きがまったくないなかで積極的な情報開示を行ったのだとすれば、スノーピークの対応は、コンプライアンスの一般論からは適切に見えても、実際望ましい対応を考えるうえでは、やり過ぎた対応であったと評価すべきです。
過剰なコンプライアンス対応は混乱を生む
以上から、スノーピークの件で学べることとしては、まず、単に経営者が不倫をした、というだけで辞任することは、過剰なコンプライアンス対応となりかねない、ということです。
横浜ゴムのように、なんら対応せずやり過ごすという対応は、決してポジティブに評価できるものではありませんし、システナのような反撃は得策とはいえません。しかし不倫という、本来はプライベートに属する事項についての問題であることから、不倫をした事実を踏まえてもなお「経営を委任するかどうかは株主が判断すべき」と考えることも、現実的な対応として、現時点では社会的に許容され得ると思います。
また、コンプライアンス的には、一般的に言って積極的な情報開示は評価されますが、過剰な情報開示はかえってマイナスになる場合もあるというのがスノーピークの事案の教訓だといえます。
なにか事情があったのかもしれませんが、積極的な開示によって、結果としてスノーピークも山井梨沙氏も大きく傷つくことになりました。経営者の不倫は、企業コンプライアンス上は“不適切な行為”ではありますが、“社会的に許容されない”ほどの行為でもありません。経営者の不倫が問題になった状況で、その事実をあえて開示すべきかどうかは、開示が起こすハレーションとも比較検討したうえで、慎重に判断すべきものと思います。