政治家や芸能人の不倫は許せない?
(1)問題点
コンプライアンスは「法令」の「遵守」ではなく、「社会的要請」へ積極的に適応することが求められています。企業のコンプライアンスを実現するためには、法令だけでなく、法令の背後にある社会からの要請にも応えていかなければならず、法令だけを守り従っていればよい、という考え方では不十分です。
そして不倫は、社会との関係においては法令の問題ではありませんが、昨今の政治家や芸能人などの不倫への強烈なバッシングと、その後辞職したり、活動休止に追い込まれたりするさまを見ていると、一定分野において、不倫が“好ましくないもの”、“不適切なもの”、というだけでなく、“社会的に許容されないもの”であるという、社会からの強い要請があることは明らかです。
それでは企業の経営者に対しても、“許容すべきでない”(平たく言えば、不倫は“許されざるもの”であり、一発アウト、辞任に値する行為である)という要請があるのでしょうか。それを検討するためには、最近の類似事案への社会的な評価を検証するのが一番ですので、2022年に他の上場企業で起きた2つの事例をみていきましょう。
なお、比較する事案は不倫の内容が異なります。しかし、“妊娠するような真剣交際”と、“遊びのパパ活”は、賠償請求という観点からは、前者のほうが「婚姻共同生活の平和」を破壊する程度が高いため、違法性も高くなりますが、経営者の不倫の社会的な評価として、“遊び”のほうが許される、などということはないと思われるため、同列に扱います。
横浜ゴム社長の「パパ活」報道は炎上せず
(2)類似事案の検討
横浜ゴム山石社長の件(事案①)
まず事案①は、大手タイヤ・ゴムメーカーの「横浜ゴム」山石昌孝社長についてです。22年5月10日、文春オンラインが、既婚者でありながら「パパ活」を行っていたことを報じます。
山石氏は生え抜きの優秀な人物であり、社長就任後も業績は好調で、徹底したコスト削減なども功を奏し、21年度は、創業105年目にして営業利益は過去最高益を記録していました。
社長は取材に対し軽率であったことは認めましたが、公の場での謝罪や会見などはなく、会社も特にこの件で処分することはありませんでした。
これに対し、マスコミやSNS等で、大きな話題になったり、炎上したり、といった形跡は見受けられません。最近の週刊文春の記事でも、横浜ゴム社員へのインタビューで「社内にあの件の影響は全くありません」と話している記事が掲載されています。