結論、不倫で辞任する必要はない

一方、それでも不倫をしてしまった場合、“社会的に許容されないもの”というまでの社会的要請はなく、責任のとり方として、一般的に言って辞任までは不要です。あくまで不倫の事実は、経営者の適格性に疑義を持たれる事情のひとつに過ぎず、責任のとり方として、「今後は経営により注力し、ステークホルダーに利益を還元する」といった責任のとり方もありうるものと思います。

ただし、政治家や芸能人のように、公的な仕事と深い関係があったり、表に出る仕事を多く行っていたり、また、BtoCでブランドイメージが重要であったり、といった事情がある場合や、ほかにも倫理的に非難される行為を行っていた場合には、社会的な責任は重くなり、辞任が相当ということになる可能性もあり得ます。

オフィスでノートパソコンを使っている手に手を重ねられ、セクハラを受けていると思われる女性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

スノーピーク社長の辞任は過剰対応だった

スノーピークはBtoC企業であり、ファンの囲い込みを重要な戦略としていて、ブランドイメージは非常に重要であること、さらには、山井梨沙氏が広告塔の役割を果たしていたことなどからすると、事案①、②同様に対応せずやり過ごすことは許されず、なんらかの処分は必要であったように思います。ですが、スノーピークも山井梨沙氏も、騒動前、清廉潔白であるなど、不倫が極めて大きなマイナスになるようなイメージがあったわけではなく、これまで述べた一般論からは、辞任までは不要と考えられます。

たしかに、本人や父の太氏の強い意向、もしくは相手方の配偶者との関係など、報道からは見えてこない事情により辞任という選択をした可能性もあります。また、本人のメンタルなど、やむを得ない理由があったのかもしれません。

しかし実際、本件を受けた社会の反応としても、辞任はやり過ぎだ、との声は多く、また過去事例や、海外の例からして、男の経営者が不倫を理由に辞任する例が少ないことなどから、山井梨沙氏が女性で、妊娠したから辞任させられるのだ、といったジェンダー問題と結びつけて批判する論調までありました。

残念ながら、辞任を潔いとして評価し、ブランドイメージが逆に高まったという声のほうが多いとはいえず、辞任は過剰な対応であったと思います。

面白おかしく拡散されるリスクもある

では、「既婚男性との交際及び妊娠」という社長辞任理由を積極的に公表したことについてはどうでしょうか。

上場企業が社長辞任の理由について、「不倫」を自ら公表し、処分、対応を公表するのは前例がないことです。じつは、公表と同日、石油元売り最大手のENEOS(エネオス)HDでは、会長の辞任から1カ月以上も経過した後になって、辞任理由が性加害や被害者の骨折であることが明らかになっていて、当日、このエネオスの対応と対照的なスノーピークの赤裸々な公表を好感する声もありました。また、コンプライアンスの一般論からすれば、情報の後出しは“隠蔽いんぺい”などと非難される可能性を高めるため、自ら情報発信することは、望ましい対応といえます。