米国が仕掛けるなら韓国から避難する

一方、米国側でも、先制攻撃に備えた下準備はまったく行われていない。それは例えば、次のような動きから判断することができる。

・米韓軍が、在韓米陸軍の非武装地帯付近への前方展開といった臨戦態勢に入っていない。
・米韓軍の対北朝鮮情報監視態勢「WATCHCON」(ウォッチ・コンディション)が強化されていない。
・米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」に参加したアメリカ軍部隊が韓国から撤収している。
・在韓米軍及び在日米軍の家族のアメリカ本土への避難が始まっていない。
・在韓国アメリカ大使館が韓国国内のアメリカ人に注意を呼び掛けていない。

このほかにも、韓国国防部(国防省)報道官が4月11日の記者会見で、「SNSなどで流布されている情報に惑わされてはならない」と述べるなど、「米朝戦争」が始まれば最も甚大な被害を受けるはずの韓国でも「先制攻撃説」を否定する報道が出始めている。(いずれも4月17日現在)

たしかに事態の緊迫さを示す動きはある。アメリカ太平洋軍は空母「カール・ビンソン」を朝鮮半島近海へ展開(在日米海軍の空母「ロナルド・レーガン」は昨年末から横須賀で定期修理中)するほか、空軍のWC-135C大気収集機(地下核実験後に放出される微量の放射性粒子を収集する)及びRC-135S弾道ミサイル情報収集機が、4月7日に米本土から飛来して嘉手納で待機している。また、米海軍は弾道ミサイル追跡艦「ローレンツェン」を先月30日から佐世保で待機させている。

アメリカ軍のこのような措置は、「米朝戦争」ではなく、北朝鮮において核実験が実施される可能性が高いことを意味している。

北朝鮮は4月16日に弾道ミサイルを発射したが、失敗だったうえ、大陸間弾道弾(ICBM)ではなかったため大きなニュースにはならなかった。世界が注目しているのは、弾道ミサイルの発射ではなく、核実験なのだ。

北朝鮮はさんざん「強硬発言」を続けてきた後なので、絶対に失敗はできない。もし失敗すれば金正恩のメンツは丸つぶれである。そうしたリスクが存在するにもかかわらず核実験を実行したとすれば、それは北朝鮮の自信の現れであり、核開発がアメリカの想像以上に進んでいることを意味する。

では、北朝鮮が核実験を行ったら、アメリカは先制攻撃をかけるのだろうか。私はその可能性もほぼゼロだと考えている。次回以降、その理由を述べる。(つづく)

宮田敦司(みやた・あつし)
1969年名古屋市生まれ。ジャーナリスト、北朝鮮研究者。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校語学課程修了。北朝鮮を担当。1989年日本大学法学部政治経済学科入学、1994年卒業。1999年日本大学大学院総合社会情報研究科博士前期課程入学。2005年航空自衛隊退職。2008年日本大学大学院総合社会情報研究博士後期課程修了。北朝鮮研究で博士号(総合社会文化)を取得。近著に『北朝鮮恐るべき特殊機関』。
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