「損得」ファーストの大統領と渡り合えるか
【三浦】この1年で世界の潮流の一番大きな変化はトランプ米大統領の誕生だろうと思います。トランプ新大統領の登場によって日本外交、日本の安全保障政策はどのような変化を迫られると石破さんは予測されますか?
【石破】なぜトランプ大統領が当選したのか、本当によく分析しなければいけない。我々はほとんど、ワシントンDCやニューヨークしか知らない。会うのはもっぱら政府関係者や、軍の関係者や、大企業の人がほとんどで、圧倒的多数の、アメリカの普通の国民に接することがない。トランプ躍進の原動力になったのは白人の中年の中低所得者層の男性と言われている。ブルーカラーや高卒者の7割ぐらいがトランプ氏を支持したそうです。アメリカでは40代、50代の白人男性の死亡率だけが突出して増えていて、医療用麻薬の消費量も断トツに多いそうです。そういう中で、一般の米国民が何を考えているのかということですね。日米安保は日本の「タダ乗り」ではないことをどれだけの米国人がわかっているだろうか。「中国はけしからん」「メキシコはけしからん」とトランプ大統領は訴えた。「いや、そうではない」とまともなことを言ったのがヒラリー氏。しかし、まともではないけれど大勢が支持することを言ったトランプ氏が勝った。
【三浦】そこに危機感を感じる。
【石破】すごく感じます。時に孤立主義に回帰することもあるけれど、「多少損をしても世界のために働く」という一種の矜持がアメリカには長らくあった。今までアメリカが先頭に立って守ってきた人権、民主主義、正義、法の支配などを、トランプ大統領がまったく無視するとは思わない。しかし今までにないほど「損得」の概念がかなり強く出てくるだろうと。
【三浦】しかもそれが短絡的に行われる。
【石破】そう。日本はそういう相手と、同盟国として相対していかなければならない。問われているのはトランプ大統領ではないと私は思う。
【三浦】つまり、こちら側だ、と。
【石破】日本の側だと思います。