行動で生じる出会いや気づき

当初のこのプログラムは、「オフィス・アンバサダー」という名称だった。しかし、いざ始めてみると、病院、学校、さらには船舶など、いわゆるオフィス以外の職場からの申し込みが半数を占めた。「ネスカフェ アンバサダー」に名称を改めたのは、この広がりに対応できることに気づいたからだという。

アンバサダーがコーヒーを定期購入する「お届け便」の仕組みも、最初から用意されていたわけではない。当初はマシンを送っても、その後のコーヒーの購買が続かないケースが、少なくない頻度で生じた。

ネスレ日本は、アンバサダーたちへのヒヤリングを進め、必要なコーヒーカートリッジの購入量を簡単に見積もることができ、最安価格で購入でき、かつ配達の量と頻度の設定を選ぶことができるフレキシブルさを備えた宅配の仕組みの重要性に気づく。現在は「ラク楽お届け便」という名前の仕組みを用意し、ネスカフェアンバサダーへの申込者には定期購入をうながしている。

ネスカフェアンバサダーを運営していくには、アンバサダーを獲得する「リクルート」の取り組みも重要だが、加入後のアンバサダーの参加意欲を維持する「エンゲージメント」の取り組みがさらに重要となる。これも、アンバサダーたちを集めての感謝会などを開催したりするなかで、気づいていったことだという。現在ではネスレ日本は、アンバサダーを対象とした各種の交流イベントを各地で行うようになっている。

津田氏が「やってみなければわからない」と語っているように、ネスカフェ アンバサダーの事業は、行動を起こすことで生じる出会いや気づきを、プロセスのなかで取りいれながら出来上がっていっている。

だがそれは、運まかせの歩みではない。一方にはコーヒー市場のシフトをにらんだ戦略商品としてのバリスタがあり、オフィス市場を有望な成長のフロンティアと見定める戦略判断がある。想定外の反応や偶然の出会いを大切にする一方で、戦略計画の確かさがネスレ日本にはあったことを見逃さないようにしたい。

「実行し省察する」地上戦と、「分析し計画する」空中戦。いずれが欠けても、ネスカフェ アンバサダーの事業がこのように急成長することはなかっただろう。この2つの行動原則を高い水準で融合していくことが、マーケティングには欠かせないのだ。

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