コーヒーの家庭外市場の開拓

世界的な総合食品企業であるネスレは、日本では、レギュラーソリュブルコーヒーなど、お湯に溶かして飲む粉のコーヒーを、瓶に詰めて販売する事業を柱としてきた。これは家庭に常備し、同じコーヒーを家族全員で飲むのに適した商品である。しかし、単身世帯や二人世帯が増加し、あるいは大家族でもあっても個食化が進む中では、好きなときに一杯ずつという飲み方に応えていく必要がある。

お湯を注ぐだけとはいっても、一杯のみのコーヒーのためにお湯を沸かすというのも面倒だ。加えて1996年のスターバックスの参入以降には、カフェブームの広がりなどもあり、日本でもエスプレッソやラテなど、コーヒーの飲み方の多様化が進んでいた。

コーヒー市場をとりまく変化をとらえるべく、ネスレ日本はスイスの本社に打診し、共同でバリスタの開発を進めた。バリスタは、「今回はエスプレッソ」「次はラテ」と、好みの飲み方を選択して、ボタンを押すだけで一杯ずつコーヒーを淹れることができるマシンである。加えて日本人の好みに合わせてコーヒーの温度は高めに設定してあり、マシンのサイズも日本の家庭に合わせて小型化している。

ネスレ日本は、バリスタの販売を2009年にスーパーなどで開始し、2011年には家電量販店へと販路を広げた。バリスタは、国内で販売台数が最も多い家庭用コーヒーマシンとなっていく。

しかしこの成果に、ネスレ日本は満足しなかった。それは、ネスレ日本がバリスタに、自社の次なる事業の柱となることを期待していたからである。順調に見えるバリスタの立ち上がりだったが、シフトに直面していたネスレ日本の巨大なコーヒー事業の全体を支えるには、さらに普及のペースをあげる必要があった。

では、さらなる成長機会をどこに求めるか。ネスレ日本は、コーヒーの家庭向け市場に強く、そこではNo1のシェアだった。しかし、家庭外市場については弱かった。コーヒーの家庭外での消費については、60%強が職場内で飲まれている。この市場を新たにバリスタで攻略できないか。

オフィスを中心とした家庭外市場に対するアプローチがはじまる。しかし、この販売は、不振に終わった。営業訪問をしても、返ってくるのは「コーヒーの自販機はすでにある」「マシンを買ってまで置こうとは思わない」といった声だったのである。