その日の朝刊に出ていた記事を話題にしながら「御社はいかがですか」と切り出すこともできます。雑誌にも目を通して、世の中で少し先行する企業の例や、より深い情報を見つけておく。こうした最低限のことをしていれば、どんな場合も恐れる必要はありません。インターネットのニュースサイトを見て、その日の新しいトピックを探しておくことも重要でしょう。人から聞いた面白い話を書きとめてもいいし、あるいは、ウィキペディアで調べることでもいいんですよ。私は、パソコンもスマートフォンも使っていますが、やっぱり紙に書きながら考えることのほうが断然いい。長年、能率手帳を愛用していて、電話帳のページも、図を描いたりしてノートとして使っています。誰に会っても、「株価が少し荒れていますね」とか、「原油価格が上がってきましたね」という話はできる。少し踏み込んで、「中東の王様も、お金をどう運用すればいいのか困っているかもしれませんね」とユーモアを交えることもできます。別の言い方をすれば、その日の朝刊も読まずに人と会うということは、ビジネスパーソンとして恥ですよ。

この最低限の準備を踏まえたうえで、会話術の基本として、謹厳実直という言葉を、私は「近元実直」といいかえて使っています。

最初の「近」は、相手に近づくということ。共通の話題のテーブルに着くということですね。そのために、やはり準備が必要になります。営業担当者の商談であっても、われわれ経営者同士の会話でも、相手も忙しいのだから、何のために会うのか、まず目的をはっきりさせておく。話すというのは、何かを実現するために自分の思いを伝え、相手の合意を得るということですよね。そして、「近い」ところから準備をすることです。初めて訪問する企業なら、ホームページを見て、経営理念やビジョンについて知っておく。その企業にまつわる最近の記事も見る。業界で何が起きているか調べる。お茶飲み話から始まるかもしれませんが、話が終わるころになって、ようやく仲良くなるようではだめで、最初から一発で距離を縮めなければなりません。