さて、三股かけたゴーン氏が三菱自を立て直せるかどうかだが、それほど難しくないと思う。三菱自はリコール隠しや不正燃費問題で企業イメージを落とした。しかし三菱自のクルマに対する文句はあまり聞こえない。それどころかロシアやオーストラリア、インドネシアなどでは三菱自のクルマは非常に人気がある。悪路や荒野、寒冷地といった走行条件の悪い土地ほど三菱車の信頼性は絶対的に高いのだ。私もパジェロを乗り継いでいるが、15万キロメートル乗ったパジェロをオーストラリアで1万ドルで下取りしてもらったこともある。三菱自のクルマに対する信頼がないのは日本だけではないかと思えるくらいだが、その売れない日本国内にしても、三菱の系列の人たちは三菱自のクルマを買うし、三菱と取引している出入り業者も買う。つまりグループの裾野の広さからすれば、5%ぐらいは自然シェアで三菱自のクルマは売れるのだ。

努力しなくても5%売れるのだからセールスも気合が入らない。上は上で三菱重工や三菱商事からトップが降りてくるから、生え抜き社員は気合が入らない。そうした“緩み”がリコール隠しや燃費データのねつ造につながっている側面もあるのだろう。いざとなれば重工や商事や銀行が助けてくれる。だから生存を脅かされて真面目にとことんまでクルマを磨こうと思う社員は誰一人いない。そこが手を差し伸べてくれる相手が誰もいないホンダとの違いである。それでも誇り高き三菱ブランドだから優秀な人材は集まるし、技術力も高い。ディーゼルエンジンを造らせても、ターボチャージャーを造らせても、電子制御にしても相当いいものを造っている。だからロシアのような苛酷な環境でハンドルを握る人たちは三菱車が好きなのだ。

組織が緩んでいるのに技術力は高い。実はこれは1999年にルノーと提携してゴーン氏を招聘する前の日産の状況と非常によく似ている。日産の技術はトヨタに引けを取らなかったが、当時は技術先行でユーザーニーズに応えるクルマ造りができていなかった。さらには系列会社や販売会社に先輩社員が天下りする馴れ合い体質が染みついて合理化、コスト削減はままならず、売れないクルマでも販売店に押し込めるからセールス現場の危機感も希薄だった。組合の抵抗などほかにも理由はあるが、そんなこんなで販売不振から2兆円の有利子負債を抱えて、日産は経営危機に陥る。債務超過寸前で社長になったのが「日産のプリンス」と呼ばれた塙義一氏で、初期の改革プログラムは彼がつくり上げたものだ。しかし「内側の人間では改革は断行できない」として、救済を願い出たルノーから派遣してもらったのがゴーン氏だった。