ゴーン氏兼務に「利益相反」の可能性
10月20日、三菱自動車(以下三菱自)は同社に2370億円を出資して発行済み株式の34%を握った日産自動車(以下日産)が単独筆頭株主になったことを発表した。同時に日産のカルロス・ゴーン会長兼社長兼CEOが三菱自の次期会長に就任することも発表した。社長は三菱自の現会長で社長とCEOを兼務する益子修氏が留まる。三菱自は燃費不正問題と円高の影響を受けて、2017年3月期の連結業績予想を下方修正した。最終損失は従来予想より950億円拡大して2400億円(前期は725億円の黒字)となる見通しだ。
どん底の三菱自を再建すべく、切り札ゴーン氏がいよいよ乗り込むわけだが、日産と三菱自、2つの上場会社の会長をゴーン氏が兼務するとなるとこれは問題が出てくる。以前にも指摘したように、ルールとして禁じてはいないが、東証は上場企業のCEOを同一人物が兼任しないように指導している。会社法や法人法が規制している「利益相反」の可能性が生じるからだ。たとえばゴーン氏は日産とルノーのCEOを兼任している。
日産がルノーに何らかの商品を供給する場合、価格次第で日産の利益が上がったり、ルノーの利益が上がったりする。フランスやブラジルのルノーの工場で日産向けの車を造っているが、ゴーン氏のさじ加減一つで両社の利益は一変する。これが利益相反だ。
日本の企業と外国企業のCEOを兼任することについては国際的なルールがあるわけではない。しかし、ゴーン氏が利益相反の関係にある日産とルノーでCEOを兼務しているのは国際常識に照らしても好ましいことではない。
さらに三菱自の会長を兼任するのだから、状況はさらに複雑になる。三菱自は日産に軽自動車をOEM供給している。軽自動車の仕切り価格をゴーン会長が「低くしろ」といえば日産は儲かるが、三菱自の株主からすれば明らかな利益相反行為である。逆に再建を目指す三菱自が短期的に利益を上げる一番手っ取り早い方法は日産への仕切り価格を上げることだが、今度は日産の株主にとって利益相反行為になる。日産リバイバルプランに引き続き「三菱リバイバルプラン成功!」とやれば勲章ものだから、ゴーン氏の心の隅にそういう動機がないのか、と日産の株主は疑う。
こうした状況を証券取引所が見過ごしているのは疑問で、いずれ問題になるときがやってくると思う。ゴーン氏もそれがわかっているから、益子氏を社長に据え置いた。社長兼CEOは益子氏で、自分はあくまでシンボル的な会長にすぎないという逃げ道を残したのだろう。不正が蔓延る三菱自の性根を叩き直すというなら、アドバイザーでもいいし、単に筆頭株主として取締役会に入って改革することだってできる。経営執行にまで踏み込むからコンフリクトが生じるのだ。ゴーン氏が就任するのは代表取締役会長だろうが、これは彼の性格を如実に表している。つまりすべて自ら直接手を下さないと気が済まないタイプなのである。