名選手がダメ監督に。成果主義が組織効率を下げる

この研究チームの結論はあくまでコンピュータ上の実験結果だが、優秀な営業マンが優秀な営業課長になるとは限らないし、まして名社長になるわけでもない。課長には課長の、経営者には経営者の適性がある。その意味で、私は成果主義で人事を決めることに反対だ。選手としてはイマイチ成績が振るわなくても、監督やコーチになって才能を発揮する人は大勢いる。ビジネスの現場でも、まったく同じことが言えるのだ。しかし、アメリカをイメージした成果主義の人事システムは、論功行賞で業績がよければ管理職に出世していく仕組みになっていた。

要するに、論功行賞のように、適材適所ではない人事をすると弊害が起こるのである。これは日本の企業でも同様で、どんな人も少しずつは昇給していく仕組みにしていると、「課長クラスの給料になったから」という金額先行で、無能な人を課長に昇進させてしまうことがあるのだ。すると、もちろん、彼は課長として失敗する。そして、「出向」「転籍」などの名のもとに、本社から追い出されてしまう。それくらいなら、ずっと同じ「平社員」のポジションでいたほうが幸せだったかもしれない。

紹介したイグノーベル賞のシミュレーションには、成果主義がはらむ危険性と「適材適所」の大切さを改めて痛感させられた。

東京大学大学院経済学研究科教授 高橋伸夫

東京大学教養学部助手、東北大学経済学部助教授などを経て現職。研究課題は日本企業の意思決定原理、組織活性化。主な著書に『虚妄の成果主義』『できる社員は「やり過ごす」』など。
 
(構成=大高志帆 撮影=加藤ゆき)
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