ポイントその3:日本企業ならではの正確なビジネスを強みに
3つ目のポイントは「正確さ」です。D&Dにやってくるインテリアコーディネーターは欧米のセレブリティに邸宅のトータルコーディネートを任され、室内の家具や調度品を集めて、数千万単位でドンと購入します。通常、家具は数か月から1年単位で納品されるそうですが、MATSUOKAは丁寧な上に、特別な別注品でも納品スピードが他社と比べても速い。この技術面でのアドバンテージに加えて、メールの返信が早い、納期を守る、アフターサービスを行うなど、日本企業なら当然と思われるビジネス上のやり取りの正確さが評価を上げているようです。
デザイン、品質、スピード。この3点にブランドとしての価値がしっかり認知されたら、さらに飛躍するはずです。
ブランドづくりに取り組んだ成果とは
気になるのは、松岡家具製造の社員たちが、守次社長の目指していることをどれだけ理解し、共有しているかです。社長の独り相撲になってしまったら、企業は成長できません。たとえば、松岡家具製造は府中家具の老舗として、日本家屋に合うデザインの家具を多く製造してきたわけですから、いくら高い技術があったとしても、欧米デザイナーのデザインを形にするのは、そう簡単ではないと思います。こうした私の質問に、守次社長は率直に答えてくれました。
「MATSUOKAは顧客が求める商品を作り上げるブランドですから、どんなお望みにも対応しますよ、というスタンスで、オンリーワンの別注がたくさんあります。おっしゃる通り、外国人デザイナーが求めるなめらかなラインなどを実現するのは難しいです。正直に言えば、チャレンジしたけれど、どうしてもできないことだって、ごくたまにですが、あります。それでも、我々はギリギリまでチャレンジして、なんとか注文に応えようとする。それが職人肌の社員が多い弊社の強みです。コストがかかりすぎて市場価格に乗せようがない商品でも、MATSUOKAブランドのハイエンドな顧客が相手なら、どんなに高価格になっても最低1個は売れる、ということが社員全員に理解してもらえるようになりました。それから、チャレンジしてできないときは、違う方法でやればできるんじゃないかとまた別の方法でやってみるなどして、いろいろな角度から模索するようになりますよね。すると引き出しが増えます。引き出しが増えれば、やれるレベルがまた上がる。それをこの10年間、繰り返してきました。私はこの点がMATSUOKAブランドを立ち上げてからの一番の成果だと思っています。たとえ今、弊社がブランドづくりを諦めたとしても、我々の技術を貴重な財産と考えてくれる会社がたくさんあるはずです。この自信が、社員や職人の意識も変えてくれたと思います」