ポイントその2:「和」を押しつけず、海外顧客に最適化

2つ目の理由は、「和」を押しつけすぎなかったこと。そこにはアメリカのキーマンの存在がありました。

世界の富裕層に選ばれるため、まず、2005年に中小企業庁が補助する「JAPANブランド育成支援事業」の指定を受け、アメリカのラスベガスで開催される家具展示会に出品しました。しかし3年連続で参加しても、「素晴らしい品質だ」と手応えはあるのに期待した結果が出ない。3年経験して、守次社長は問題が何なのかを理解します。

守次拓社長はもともとテニスのコーチ修行のためチェコに留学し、帰国後ミズノの関連会社でコーチをしていたという、家具業界では異色の経歴の持ち主。

1つはデザイン。端っこのオリエンタルのコーナーに置かれるようなデザインを押しつけず、海外の顧客の邸宅に合うものを商品化するべきだということ。そして最も重要なのは、ブランドを信用させることは、通訳を介して説明する守次社長ではできないということです。

「モノが良くても、日本人が片言の英語と通訳で説明していてはブランドとして信用されなかった。富裕層にとって邸宅を飾る家具はステイタスシンボルですから」

そこで、守次社長は改めてアメリカの市場調査に乗り出し、家具業界に顔が利くカナダの商社で働く日本人に出会います。その人物に「アメリカでMATSUOKAを扱ってくれそうなところに連れて回ってほしい」と頼んだそうです。そうしたなかで、ホワイトハウスや世界中の一流ホテルに納品しているアメリカの最高級家具ブランド、ベイカー社の国際営業部長とも出会いました。

ベイカーとの10年契約がちょうど切れる時期だったその国際部長は、アメリカ家具業界の大物です。契約終了を前に、他の高級ブランドからも引く手あまたで誘われていると噂が流れていたそうですが、まだ正式に決まってはおらず、いわば宙ぶらりんな状態にあり、もしかしたらMATSUOKAの話も少し聞いてくれるかもしれない、と件の日本人から情報を伝えられたという守次社長。

「アメリカの有名な会社の国際営業部長がちょっとでも話を聞いてくれるなら、そんなにすごいチャンスはない、と思いました。『すぐになんとかアポをとってください!』と頼みました。そして幸運にも、本当に話すことができたんですね。話しながら、『あ、そうなのか』『なるほど、そういうことか』と、それはもう、たくさんの気付きがありました。海外の富裕層の邸宅に選ばれるには、いくら職人技術を駆使した素晴らしい品質でも、やはり、彼らの邸宅に合うデザインでなければならない。ということは、和をおしつけてもダメだし、そうでなくても、誰が、どのようにブランドや商品を宣伝するかが、とても大切なんです」

最も重要なのは「ブランドを信用させること」。そしてそれは、通訳を介して説明する自分ではダメなのだ、とアメリカに行って守次社長は悟ったという。