抜け落ちる「感情の情報」
やりとりする相手が、その時、どのような感情であるかによって、言葉の意味や目的、求められる対応などはまったく異なってきます。
インターネットが日常化する前までは、仕事における会社などでのコミュニケーションは、対面して直接話すか、もしくは電話するというのがほとんどでした。そして、相手の表情や口調などから、その感情を敏感に感じとっていました。お互いに「私はいま、こんな感情ですよ」などといちいち口にしなくても、なんとなく伝わる。上司からの「指示」にしても、お客さんからの「連絡」にしても、怒られているのか、期待されているのか、それとも頼られているのかをちゃんと感じとり、とるべき対応や返事の内容を柔軟に考えていました。
しかし、Eメールなどで日常的に細かく連絡を交わすようになり、便利になったこともいろいろある一方で、感情の情報を正しく共有することがずいぶんと難しくなってきました。つまり、本来、人と人とがコミュニケーションをとる上でもっとも注意を払っていた部分が、デジタル化したテキストの中からは抜け落ちやすくなっているのです。
この抜け落ちた「感情の情報」を毎回正確にテキスト化することは簡単ではありません。そもそも人間の感情なんていうものは、言葉や文字では表現しづらく、伝わりにくいものです。
メールのテキストでは、送り手が別に怒って書いたわけでない内容も、受け手には、責められたように感じとられることもよくあります。また、テキストから感情の情報が読みとれないとき、それを自分で予測するしかないわけですが、僕たち人間は欠落した部分の情報をネガティブに考えてしまう「下方修正」を起こしがちです。「なんか、怒らせてしまったのかな、自分のあの行動のせいかな……」という具合に。
誤解をなくすためには、とんでもなく丁寧に「前置きとして、これは怒っているわけではなく、責めるつもりもなく、あなたの励ましになればと思い、できるだけ冷静に事実関係を伝えたいのですが……」などと書けばいいのかもしれません。でも、そんなことを毎回やっていたら時間も手間もかかりすぎて疲れてしまいます。そもそも、感情の情報は直感的にやりとりされてこそスムーズに機能するものです。
そんな「抜け落ちた情報」を、顔文字やスタンプはけっこう補ってくれるのです。