東日本大震災後、被災地に車椅子を送るボランティア
【田原】でも、その売り上げじゃやっていけないでしょう。2年目以降はどうだったんですか。
【垣内】2009年に創業して、2期目は1400万円、3期目が2000万円。しばらくそのレベルでしたが、6期目に2億3000万円とグッと伸びました。
【田原】伸びたきっかけは何だったのですか。
【垣内】東日本大震災です。震災があったとき、事業とは関係なく、被災地に車椅子を送る「ハートチェアプロジェクト」をはじめました。震災で車椅子が流された、壊れたという情報が伝わってきたので、地震の翌日には車椅子メーカーに電話をして協力を仰ぎました。ありがたいことに、兵庫県明石市のメーカーさんが協力してくださることになり、最終的には304台の車椅子を被災地に届けました。完全にボランティアだったので売り上げには直接関係なかったのですが、このプロジェクトをきっかけに私たちのことを知ってくださった方が多く、お客様が広がっていきました。
5分間の心肺停止でわかったこと
【田原】具体的には、どんなお客さんが増えたのですか。
【垣内】もともと大学などの教育機関での仕事が多かったのですが、震災以降は一般企業とのつながりが増えました。一番大きかったのは、レジャー施設ですね。名前は出せないのですが、あるテーマパークでアトラクションのバリアフリー化や従業員研修をやらせていただきました。たとえばアトラクションに乗りやすいかどうかとか、地震が起きてアトラクションが止まったときにきちんと誘導できるかどうかといった内容です。そこからホテルや結婚式場にも評判が広がって、最近はお墓のバリアフリー化もお手伝いしています。
【田原】お墓? 建物のバリアフリーはわかるけど、墓地も問題ありですか。
【垣内】まず通路幅が狭いです。それから水を汲む場所も遠いし、そもそも山奥にあって行きづらい。先立たれたご主人のお墓参りに行きたいが、足が悪くていけないという方が多く、このコンサルティングはけっこう引き合いがありました。
【田原】お客が増えると、コンサルティテングができる人も増やさないといけませんね。垣内さんおひとりじゃ対応できないでしょう。
【垣内】そうですね。じつは私、13年に骨の手術を受けた後、心肺停止になったんです。手術は無事に終わったのですが、合併症で肺水腫になり、心臓が5分間停止。その後も意識が戻らず、2日間、昏睡が続きました。心肺停止5分間だと、蘇生率は25%。蘇生しても9割は後遺症が残ると言われています。元の状態に戻れるのは25%×10%で、2.5%。本当にありがたいことに、私はリハビリがうまくいって何とか復帰できました。しかし、このときの経験から、自分がずっと前線で走り続けられる保証はないことを思い知りました。障害に価値があるということを世の中に伝え続けるには、人を育てなければいけません。いまそれに取り組んでいます。
障害者スタッフのバックボーンがさまざまだからこそできる提案がある
【田原】いまミライロの従業員は何人いらっしゃるんですか。
【垣内】35人です。総務や経理の者を除けば、全員がバリアフリーのコンサルティングができます。
【田原】コンサルタントは健常者? 障害のある人?
【垣内】全体の3割が障害のあるスタッフで、7割が健常者です。なかには全盲のスタッフもいれば、まったく耳が聞こえないスタッフもいます。たとえば全盲のスタッフは、見えている私には気づかないことに気づくかもしれないし、耳の聞こえないスタッフも私にはわからないことを指摘してくれるかもしれない。そうやってさまざまなバックボーンを持ったスタッフがそれぞれの経験や感性を活かすことで、よりよいご提案ができると考えています。
【田原】そうか、障害にもいろんな形があるからね。たとえば全盲の人向けのバリアフリーは、どんなことをやるんですか。
【垣内】人間は情報を知覚するとき、8割は視覚から得ているといいます。その8割が得られなければ、極端な情報不足です。そこで点字ブロックや音声案内で不足を補います。それが視覚障害に対するバリアフリーになります。
【田原】人を採用するときの基準はありますか。
【垣内】ありがたいことに、いま月50~60人の応募があって、採用は厳選させてもらっている状況です。条件としては、まず、しっかりと儲けたい、稼ぎたいと思っていること。ミライロはきれいなイメージが先行していますが、社会貢献ブームに乗っているだけでは継続性がなく、いずれ食べていけなくなります。社会に必要なことだからこそ、しっかり稼いで続けてかなければいけません。そこをはき違えて、ただ社会貢献をしたいというだけの人は来てほしくないですね。
【田原】具体的には、どういうところから来られる方が多いですか。
【垣内】新卒もいれば、転職組もいます。転職組は証券からITまで、さまざまな業界から来ています。人材は多様ですが、ほとんどのスタッフが自身に障害があったり、家族や友達に障害のある人や高齢者がいて、バリアフリーに対して人ごとでない思いを持っています。そこは共通しているかもしれません。