業界の構造に目を向け「価格の進化」を実現

(4)手が届く既製品でありながら、豊富なサイズバリエーションを用意し、手間を掛けずに選べる利便性を提供

サイズ選択の幅が限られる安価な既製品と違い、メーカーズシャツ鎌倉では顧客が最適な商品を選べるように豊富なサイズバリエーションを用意し、店頭で簡単に選べるように工夫している。顧客は自分のサイズの商品を、2回目以降は陳列棚から容易に選べる。多忙なビジネスパーソンが仕事の合間に短時間で買い物でき、店頭での接客時間も短縮できるメリットを生み出した。

(5)広報活動に取り組み、自社の強みと魅力をクチコミやSNSで拡げる

直営店を出店しても、顧客基盤を持たない企業は集客に苦労する。メーカーズシャツ鎌倉は女性誌「Hanako」に情報を送り、鎌倉特集に掲載されたことがきっかけとなり集客につなげた。雑誌社は毎年定期的に特集するテーマ(観光なら京都や鎌倉、夏の水着シーズン前にはダイエットの特集など)があり、編集者は他誌を情報源として参考にすることが多い。そのため一度メジャー誌に掲載されると、その後は多くの雑誌やSNSなどに紹介される機会と頻度が増える(これを弊社では情報連鎖と呼ぶ)傾向がある。
こうしたメディアの特性を踏まえて広報活動を行うと、B2C市場では非常に効果がある。

(6)メイド・イン・ジャパンの魅力を強みにする

製造コストを削減するために新興国で製造する企業は多いが、コスト競争では生産量の多い大企業が有利だ。中小企業の場合、価格競争の市場でなく、独自の強みを発揮した価格帯の商品で優位性を発揮すべきだ。メイド・イン・ジャパンを売り物にするなら、商品を通じて国内生産の価値を「見える化」し、モノづくりの違いを提示することが重要になる。

(7)イメージのいい都市のブランド力を活用する

1都3県(東京、千葉、埼玉、神奈川)を対象に行われた全国都市ブランド力調査(2008年に(株)ゲインが実施)を見ると、行ってみたい都市ランキングで鎌倉は19位にランクインしている。首都圏に暮らす生活者には、鎌倉のイメージが非常に高いことがわかる。その一方、京都などと比較して、鎌倉の地をブランド資源としてアピールする企業や商品はまだ少ない。こうした中でメーカーズシャツ鎌倉は、鎌倉という都市のブランド力を自社の資源として上手く活用した。

成長を続ける企業は、「価格を進化」させるために業界の構造に目を向け、さらに顧客が納得する価格設定を実現していることがわかる。

酒井光雄(さかい・みつお)
1953年生まれ。学習院大学法学部卒業。日本経済新聞社が実施した「経営コンサルタント調査」で、「企業に最も評価されるコンサルタント会社ベスト20」に選ばれたマーケティングのコンサルタント会社、ブレインゲイト代表取締役。著書に『価値づくり進化経営』(日本経営合理化協会)、『全史×成功事例で読む「マーケティング」大全』『成功事例に学ぶ マーケティング戦略の教科書』(共にかんき出版)、『コトラーを読む』『商品よりもニュースを売れ! 情報連鎖を生み出すマーケティング』(共に日本経済新聞出版社)、『中小企業が強いブランド力を持つ経営』『価格の決定権を持つ経営』(共に日本経営合理化協会)、『図解&事例で学ぶマーケティングの教科書(マイナビ 監修)』など多数ある。日経BP社日経BP Marketing Awards(旧名称 日経BP広告賞)の審査委員を務める。
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