主導権を握るテクニック

交渉事で主導権を得るためによく使われるのが、ご存知の方も多いだろう「アンカリング」という手法だ。「アンカー」とはその場を離れないようにする船のいかりのこと。最初に示された数値などの条件が話の基準点(アンカー)として印象に残り、どうしてもそこから離れられない心理傾向をいう。最初にこちらが基本条件を提示することで、交渉の一部始終がその条件を基盤として進んでいくというものだ。

たとえば、よく使われるのが「通常価格3万5000円が、セール価格2万円」といった価格表示だ。最初の3万5000円がアンカーとなり、それに対しての2万円なら「1万5000円の値引き」とお買い得に感じられるだろう。

その品に2万円が妥当かはわからなくても、「1万5000円安い」という事実が示されている。これは価格だけである必要はない。ダニエル・カーナマンの『ファスト&スロー』では、こんな例があげられている。

被験者に0~100の数字の円盤を回してもらう。各円盤は、必ず「10」か「65」に止まる仕掛けがしてあり、数字が出たら次のような質問をする。

「国連でアフリカ諸国が占める比率は、今出た数字よりも大きい? 小さい?」
「国連でアフリカ諸国が占める比率は、何%か?」

その結果は……
「10」が出た被験者 → 平均「25%」がアフリカ諸国。
「65」が出た被験者 → 平均「45%」がアフリカ諸国。

という答えになっている。そこに提示されたのがまったく関係ない数字であっても、「10」を基準にして少し大きな「25」、「65」を基準にすると少し小さな「45」が妥当に思えてしまうように、アンカーが大きく判断に影響をおよぼしてしまう。これを交渉にうまく活用することで、主導権を握りやすくなるというわけだ。

さて、今回は人への頼みごとや交渉の際に生かせるテクニックの中から少しだけご紹介した。仕事ができる人が巧みにコミュニケーションをしていく中で、こうした心理術をうまく使えば、自分がイメージする落としどころで、さらに効果的に話を進められるようになりそうだ。

[脚注・参考資料]
Changing Mind, Luncheon Technique
ダニエル・カーネマン (著), 村井章子 (訳)『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 』 早川書房 2014

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