クーデターの首謀者は一体誰なのか?

クーデター未遂の直後から、エルドアン大統領やトルコ政府が首謀者として名指ししたのが、アメリカ在住のイスラム教指導者フェトフッラー・ギュレン師だ。ギュレン師は穏健なイスラム指導者で、彼が率いる社会運動(ギュレン運動)はトルコの教育や医療支援などの社会奉仕活動で大いに貢献してきた。軍や財界などエリート層にも多くのギュレン支持派がいるという。もともとエルドアン大統領とギュレン師の仲は悪くなかったのだが、大統領の汚職疑惑を機に距離が離れていった。ギュレン師はクーデターの関与を否定している。しかし軍の内部にはギュレン派もいて、ギュレン師に煽動されたかどうかは別にして、エルドアン大統領のやり方についていけないと思っていた人がかなりの数いたことは間違いない。クーデターを潰したエルドアン大統領はすぐさま大粛清に乗り出した。軍人や警官、判事や教員など、すでに5万人以上の公務員が拘束されたり、解任や停職処分を受けたりしている。ギュレン派は格好の粛清ターゲットで、今回のクーデター未遂は(あまりにもお粗末だったために)「ギュレン派を一掃して独裁体制を固めるための自作自演ではなかったのか」という見方まである。

またクーデターの2週間以上前に時計の針を戻すと、注目すべきトピックスがあった。昨年11月のロシア軍機撃墜問題でロシアの謝罪要求を突っぱねていたエルドアン大統領がプーチン大統領に謝罪したのだ。トルコにとって外貨を稼ぐ手っ取り早い手段は観光業。しかし、トルコ国内ではテロが続発して観光客が激減。ビザが要らないから大挙してやってきていたロシア人も、撃墜事件の報復措置でトルコへの渡航が禁止されて足が遠のいた。自国経済が窒息状態のエルドアン大統領としては、渡航禁止を含むロシアの経済制裁を解除したかった。だから謝罪したのだ。実際、謝罪の直後、プーチン大統領はトルコへの渡航を許可している。エルドアン大統領はロシアとの仲直りついでにシリアのアサド大統領と対話する姿勢も見せているが、これを一番嫌がるのはアメリカだ。アメリカからすればNATOがロシアと対立を強めているときにトルコとロシアが接近するのは好ましくないし、打倒しようとしているシリアのアサド政権との関係改善も困る。エジプトみたいに軍事クーデターで親米の傀儡政権を立ち上げるのはアメリカの得意技。エルドアン大統領は「アメリカが仕組んだ」と非難しているが、真相は藪の中だ。