失敗もめげない多角経営のマルチタスク派
一方、マルチタスク派の経営者といえば、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文である。鈴木がいわば一からつくりあげた日本型コンビニがセブン-イレブンである。出店戦略から商品政策、店舗運営まで、オリジナルな発想で鈴木が細部にわたって取り組んできた。最近では、プライベートブランド「セブンプレミアム」の開発にも大きな力を発揮し、大ヒットとなった「金の食パン」も鈴木自らが提案した。しかも、発売当日、普通なら販売促進に檄を飛ばすところ、鈴木はすでにリニューアルを提案。おいしいものはすぐに飽きられるからと、次の手を指示したのだ。マルチ派の本領発揮である。
ファーストリテイリングの柳井正も典型的マルチ派だろう。
柳井は父親が始めた個人商店を引き継ぎ、ユニクロを全国展開させるまでの間に、婦人服店や直輸入カジュアルウエアショップなど、3年に1店舗のペースでつくってはつぶすことを繰り返していた。東証二部上場後にも、多角経営を試みて失敗している。その1年半後に開店させた原宿店と、同時期に発売したフリースが起爆剤となり、ユニクロは黄金期を迎えた。マルチタスクで様々な手を打っていたことが奏功したのだ。
マルチタスクといえど、まったく違う2つを両立させている経営者もいる。プロ並みの登山やカヌーの経験を積みながら、日本有数のアウトドアメーカーを一代で築き上げたモンベル会長の辰野勇がそうだ。「登山と経営は似ています。リスクを冒して道を切り開き、誰も登ったことがない頂に立つ。同じく誰も作っていないものを作る。その根底にあるのは好奇心です」とその2つの接点を語った。