才能溢れる22歳に期待大!

もっとも、所属する帝京大ではスタンドオフ(SO)を務めることが多く、松田はFBにはさほど慣れてはいなかった。むしろ気の毒な起用だったが、弱気になることはなかった。ミスしても、180cm、90kgの恵まれたからだを活かし、大胆に前に出た。

松田は凛としていた。

「ひとつひとつのプレーの大切さ、ミスの大きさというのを、改めて肌で感じました。たくさん、いい経験をさせてもらいました。ここがゴールじゃない。この経験を財産として、もっと成長したいと思います」

記者と交わるミックスゾーンでは、きちんと背筋を伸ばし、どんな質問にも誠実に答える。ヒタイには大粒の汗。ラグビーとは人格がプレーを伸ばすところがあるので、どうしても松田の将来が楽しみになるのである。

キック、パス、ラン……。素材は文句なしだ。名前の「力也(りきや)」には、今は亡き父による「男は力なり」との熱い思いが込められている。きっと負けず嫌いな性格。屈辱と後悔を糧とし、先の栄光に結ぶタフさを持つ。

スコットランド第2戦では、スタンドに五郎丸歩の姿があった。記者から「五郎丸の代わりの先発出場の気分は?」と聞かれると、松田はこう、答えた。

「五郎丸さんと同じ、日本の15番(FB)のジャージを背負うことを誇りに思いました。責任も感じました。この反省を生かして、どれだけレベルアップできるかが自分の課題だと思います」

SOにしろ、FBにしろ、2019年ワールドカップ日本大会では、日本代表をプレーで引っ張ることになるだろう。繰り返すけれど、まだ22歳。幾つかの蹉跌(さてつ)を経験しながらも、「力也」は成長を続けていくのである。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)、『新・スクラム』(東邦出版)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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