今、求められる行動的倫理と「ビジネス人権」
近年、ビジネス・エシックスの学問的なトレンドは2つあります。
1つは、行動的倫理(behavioral ethics)。これは、組織や環境が人の行動にどんな影響を及ぼすかを対象とした研究です。
たとえば、利益を追求するあまり自身の倫理観に反している組織に属した場合、個人はどのように行動するべきか。個人の価値観だけでなく、組織にも焦点を当てて倫理を捉える学問です。意思決定が個人の価値観のみに左右されるわけではない以上、行動的倫理は解き明かしていくべき重要なトピックだといえるでしょう。
2つめはビジネスが担う人権への責任についてです。これは、研究の世界だけでなく、グローバル企業の多くが注目している事案です。
これまで一般的にイメージされてきた「人権」とは、国連の「世界人権宣言」で定められた、国家(政府)が権利を保障するというものでした。「現在は大企業も政府と同様に人権を守るべき存在なのではないか」という議論が出てきています。たとえば、企業は人の言論の自由や移動の自由といったものを阻害することはできず、尊重していくべきだというのがこの主張です。国連もこうした議論に対し、「企業も『人権を尊重する義務』がある」という一定の方向性を示しました。私は、あえて「人権」という言葉を使わずとも、「人を不当に扱わない」「人を傷つけない」といった言葉で表現したほうがいいと思っています。