「軽減税率」は周回遅れの不毛な議論

今回のEC改革の最大の目玉である「輸出国における還付制度の撤廃」は、こうした不正の解決策だ。

どういうことか。輸出企業は、物品を輸出する際は輸入国側の輸入業者から付加価値税を受け取り、それを輸出国に納税する。消費地課税の原則に則り、輸出国で徴収された付加価値税は、輸出国の財務省を通じて輸入国の財務省へと送金される。

つまり、各国の財務省同士で資金移転をすることで、不正還付や納税のタイミングを利用した詐欺が起こりうる機会(0%税率・還付)そのものをなくすアイデアなのだ。現行の複雑な制度は、不正の温床となりやすい。それを排除することは、同時に徴税側、事業者側の事務処理の簡素化にも通じる。

これまでの付加価値税制度は、EUの単一市場の構築のために93年に施行された暫定的な制度であり、今回の発表は恒久的制度に向けた動きである。「行動計画」というネーミング通り、還付制度廃止に向けて実際に動き出しているということであり、今回の防止策の強化によって、国境をまたぐ付加価値税の不正の80%が削減されるとしている。

また、欧州域内で公平な競争を阻害している軽減税率に関しても撤廃、それ以外の軽減税率・非課税対象品目(0%税率)も減らし、標準課税(現在15%以上)の適用範囲を拡大する。公平・透明・簡素な制度の中で税収増を実現することで、標準課税の税率そのものの引き下げまで視野に入れているのだ。

付加価値税実務の盲点につけ込んだ組織的不正は、かねてからEU内でも指摘されてきた。付加価値税制度の不正行為を防ぎ、公正・中立・簡素・近代化をEUが図る状況下で、日本の増税派だけが、旧態依然とした消費税制度のままひたすら増税を叫び続けることは、もはやできまい。

導入から約40年、壮大な社会実験を経た軽減税率が欧州で撤廃縮小の動きとなっている今、軽減税率導入で紛糾することがいかに周回遅れで不毛なことか。もちろん、同じ欧州域内ということで国境を越えての改革もしやすいという側面はあろう。それが欧州域外で適用されるまではそれなりの時間もかかろうが、現行の消費税制度のままならこの先、国際課税制度で問題視される税源侵食にむしろ加担していると見なされる可能性もある。増税の前に消費税制度のあり方を否が応でも根本的に見直す時期にきたといえよう。

(共同通信フォト=写真)
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