消費税増税だけをその理由とするつもりはないが、1989年に消費税が3%で導入されて以降、「失われた20数年」の間に実体経済の低迷が長らく続いてきたことは周知の通りである。消費税率が3%から5%へと引き上げられたのが97年。それから14年の8%引き上げまで17年を要したのを鑑みれば、わずか数年で一気に5%から10%へと税率を倍増させるのは、日本経済への深刻な打撃を考えると、国民世論からしても到底受け入れられないと判断するほうが妥当ではなかろうか。

むしろ十数年後の数%の引き上げの布石として、あるいは地ならしとして10%をチラつかせたのか。国民も10%といわれながら8%に留まれば、嬉しい誤算だと好感するため、ある意味切り札としての役割も果たす。長期的展望はあくまでも増税だが、現状の8%が妥協点なのではなかろうか。

日本では消費税と称されるこのタイプの税金は、海外では付加価値税という呼称が一般的だ。国際課税の流れとして、ここにきて各国の付加価値税制度に急速かつ大きな変化が見られる。

経済減速が伝えられて久しい中国は、外需依存型経済から何とかハードランディングを避け、内需型経済への移行を図っている状況だ。その中国の内需拡大のネックの1つとされてきたのが、税率がアジア最高の17%となる付加価値税の存在だ。

かねてより付加価値税の引き下げ、税制の簡素化への要求は強い。中国国内の一段の景気悪化に伴い、業界や地区の商工会の集まり等で付加価値税率の負担の重さを訴える企業は多い。政府関係部門の担当者がそうした声を重く受け止めている様子は、中国ビジネスに詳しい知り合いからも漏れ聞いていたのだが、政府内で引き下げに向けての検討がなされているとの報道が出てきており、税率引き下げが俄然現実味を帯びてきた。

内需が芳しくなければ付加価値税を引き下げへ、というのは当然の判断といえよう。中国経済のソフトランディングがままならなければ、国際経済への影響も免れまい。

先に来日したスティグリッツ・コロンビア大学教授の言葉を借りれば、世界経済は「大低迷(Great malaise)」で、緩慢な成長が続いている。景気後退や停滞が今後予想される中、増税に代表される緊縮財政をしている場合ではないとの指摘もあった。