国際貿易に深く関わっている“消費税”

中国以上に影響力があるのは、欧州での付加価値税制度の大改革の動きだ。付加価値税の生みの親である欧州ではEC(欧州委員会)が16年4月7日付で、現行の付加価値税制度を抜本的に見直す行動計画を公表した。行動計画に従い、税制の簡素化、不正防止の強化、デジタル・モバイル経済に対応することで企業への負担を軽減し、EU経済圏の発展を図る狙いだ。

欧州の付加価値税改革についてのEC公表資料(A44枚)。従来の還付制度の問題点と、その廃止後のスキームが図示してある。

改革の必要性に迫られた背景として、第一に掲げているのは、国境を越えた取引の際の付加価値税の不正問題である。EU各国で想定される付加価値税額と実際の徴収税額の差が、13年には1700億ユーロ(1ユーロ123円換算で約21兆円)に迫るという数値がその深刻さを物語る。この徴税漏れは、主に国境をまたいだ取引での付加価値税の不正や詐欺に起因しており、欧州域内だけに限定しても約500億ユーロ(約6兆円)と試算している。

日本国内では、消費税・付加価値税はあくまでも国内税制との認識が強いが、このタイプの税金が通商問題や国際貿易と深く関わっていることは、ECのこの行動計画での指摘がその端的な例でもあるが、国際税制のいわばコンセンサスでもある。

国境を越えた取引でなぜ、付加価値税の不正が発生しやすいのか。

消費税でも付加価値税でも、税収は商品の最終消費地に帰属するという「仕向地原則」を採用しているため、輸出販売への消費税率は0%とされてきた。日本の消費税は8%の単一税率と思われるかもしれないが、実は8%の標準課税と0%という2種類の税率が存在している。輸出販売への0%税率には、日本の消費税を他国の国民から徴収するわけにはいかない、との発想が根底にある。輸出先の消費地でその国の付加価値税率が適用され、その国の税収になると考えるのが原則だ。

国境を越えた不正行為では、この輸出販売への0%税率を悪用したものが主流で、その典型例として「ミッシング・トレーダー(失踪貿易業者)」と呼ばれる事業者の不正手段がある。輸入業者は、輸入品を販売した段階で消費税・付加価値税を消費者から受け取るが、それを税務署に支払う前に“とんズラ”してしまうというもの。それと似た方法として「カルーセル(回転木馬)」詐欺がある。商品が不正業者を通じ、国境を越えて販売、再販売が繰り返されることで、不正もこうして延々と繰り返されてしまう恐れがある。

今回のEUの行動計画では、こうした輸入国での付加価値税の受け取りと課税のタイミングのラグや遅れを狙った輸入国サイドでの不正・詐欺の発生リスクと同時に、輸出国サイドにおける不正・詐欺リスクも指摘している。

輸出販売はすべて0%税率が適用されているがゆえに、輸出国では、輸出企業が輸出製品を完成させるために国内から原材料などの仕入れや部品の調達の際に支払った消費税は、全額還付されることになっている。

輸出企業は、輸出製品を海外で販売した際に消費税を受け取っていないので、国内の仕入れで払った消費税は還付がなければ払い損となる、との発想だが、行動計画はこの還付制度についても、不正・詐欺が多発しうるリスクを指摘しているのだ。