情報を読み取ることは大事なビジネススキルといえる。様々な要素から世の中の動きをキャッチする力があれば、それに対して賢い対応ができる。富士フイルムが写真フィルムという主力産業を失ったときの経営判断は大きな懸けのような側面もあったが、そのとき正しい情報収集と分析が活きたのだ。
写真フィルムの需要が徐々に落ちていくことがわかったとき、私は、富士フイルムがエクセレントカンパニーであり続けるために、新たな成長戦略を構築した。成長分野の選定の基準は、市場に成長性があるか、当社の技術を活かせるか、継続的に競争力を持ち続けられるかという点だった。
当時はテレビの主流が液晶になるかプラズマになるか勝負がついていなかったが、私は液晶が伸びると読み、熊本に新しい工場を建てることを決断した。この分野には累計3600億円くらいを投資した。経営者のなかには「完全な情報を得られなければ判断しない」という人もいるが、それでは遅すぎる。先手必勝は経営の鉄則だ。
人を判断するときも、顕在情報だけに頼ってはいけない。営業の経験でわかったのは、相手がどういう人で何を求めているのかはこちらから探らなければならないということだ。なかには情報を隠蔽する人もいるし、反対のことをいう人もいる。営業時代には少ない情報、断片的な情報から読み取る訓練を重ねた。たとえば10~15分、話をしているとゴルフのハンディキャップまで当てられるようになったのだ。その人の体つきや態度、話し方や挙措動作を見ると、だいたいわかる。
しかし、なかなか当てられないのが上級管理職の能力。課長や若手の部長までは、ある程度読めるのだが、優秀な人がある地点で成長が止まってしまうことがよくある。体力が続かなかったり、その地位で安住してしまうからだろう。経営幹部には大局観がないとスケール感に欠け、それ以上の成長がない。こればかりは数字や情報を超越した世界なのかもしれない。
1939年、旧満州生まれ。63年東京大学経済学部卒業後、富士写真フイルム(現・富士フイルム)入社。2000年代表取締役社長、03年代表取締役社長兼CEOに就任。現在は、富士フイルムホールディングス代表取締役会長兼CEO。