かつて富士フイルムは感光材料をつくる巨大な工場を世界3カ所に持っていたが、今後の需要に合わせた生産規模に減らしていった。一方で、ヘルスケア、高機能材料、ドキュメント、光学デバイス、グラフィック、デジタルイメージングの6つを成長分野と新たに定め、設備投資やM&Aなど、集中的に経営資源を投入した。これにより、デジタル化の嵐を何とか乗り切り、V字回復を成し遂げることができた。

いまだ航海は続いているが、これまでの改革が実を結び、新たなフェーズに入ったといえる。16年度を最終年度とする中期経営計画では、最終目標として、売上高2兆6300億円、営業利益は過去最高の2200億円を掲げた。この計画では、コア事業の成長の加速と全事業における収益性の向上に取り組むことに加え、3年間でM&A等への5000億円の戦略的な投資と2000億円以上の株主還元を示し、マーケットからも好感をもって受け止められた。中期的にこのような数字を掲げられるようになったことは、戦略や戦術が確かであり、社員にそれを遂行する力があったということだろう。

私がいずれデジタル化の波が押し寄せるだろうと感じたのは、1980年ごろのことだった。当時、印刷材料を扱う部門の営業課長で、印刷の製版工程でフィルムの需要が少しずつ減り、デジタルに変わり始める過程を経験した。デジタル化は印刷や医療の分野から始まったが、私は、やがて写真の領域もデジタル化するだろうと確信していた。そう確信できたのは、常に様々な情報を収集していたからだ。

情報には3つの種類がある。

まず1つ目は明白なメッセージ。完全に見えている情報だから、誰にでも読み取れ、理解できる情報だ。2つ目がかすかな兆候といった、部分的にしか見えない情報だ。断片的に見えるが、全体像は不明確な状態で存在している。そして3番目は“沈黙”だ。何かあるはずなのに片鱗も見えない。

経営者はこの3つの情報を感じ取って判断していく。物事には、あることが起きると次のことが起きるという連続性・因果律のようなものがある。それを掴んでいくことが重要だ。そのため、常に事実の流れを冷徹にキャッチするための訓練が必要となる。世の中の動きや、新聞や雑誌の情報を見ていると流れがわかってくる。そうすると断片情報がポツ、ポツと出始め、沈黙の情報と組み合わせることで、どんな動きがあるのか読めるようになる。