1%の富裕層が99%の富を独占している

アメリカの社会構造論の観点から言えば、民主党のバーニー・サンダース氏の善戦も大いに着目する必要がある。

民主党の予備選挙は本命のヒラリー・クリントン前国務長官が優勢だが、無印だったサンダース氏が一時は支持率で上回るなど肉薄している。サンダース氏の支持者の多くは30歳以下の若い世代で、対話集会は若者が詰めかけて大盛況だという。候補者の中で最高齢の74歳。選挙資金も潤沢ではなく、少額寄付に頼って選挙戦を展開するサンダース氏を、若い世代が熱狂的に支持しているのはなぜか。『21世紀の資本』が世界的ベストセラーになったフランスの経済学者トマ・ピケティ教授らが指摘するように、資本主義社会が陥る一番深刻な病状は、金持ちはますます金持ちに、貧乏人はますます貧乏になる「富の偏在」だ。自ら「民主社会主義者」と名乗るサンダース氏はこれをひとひねりして、世代格差の問題に翻訳して説いた。

すなわち「高齢者ばかりが得をして、若者が虐げられる社会でいいのか。税金逃れをしている大企業や金持ちからもっと税金を取って、君たちに配ろうじゃないか。公立大学の授業料を無料化し、国民皆保険を導入して、君たちのための世界をつくろう」というのだ。

アメリカの金持ち企業の大半は税率が著しく低いか、もしくは無税のタックスヘイブン(租税回避地)を利用して、アメリカ国内の課税を逃れている。(前回の大統領候補だったミット・ロムニー氏のように)個人の富裕層もバミューダで蓄財するなどしてまともに税金を払っていない。ますます富の偏在は進行して、今やアメリカ社会は上位1%の富裕層が99%の富を独占していると言われる。

2011年に「We are the99%」というスローガンを掲げた大規模なデモがウォール街を占拠したことがあった。要は「1%の富しか持たないマジョリティのための政治をせよ」という草の根運動だったのだが、オバマ政権も今回の大統領選挙の候補者たちもこれを無視して、富の偏在の問題にまともに向き合ってこなかった。ただ1人、サンダース氏だけが、「若者よ、怒れ」と訴えて、若い世代の共感を得たのだ。

これまで選挙に来なかった若い世代を動員することに成功したサンダース氏の人気は衰えそうにない。民主党の大統領候補はヒラリー氏で決まるだろうが、その場合、大企業とエスタブリッシュメントに寄りすぎた現状から「(トランプ氏の支持基盤である)怒れる貧しい白人たち」を取り込むためにサンダース氏を副大統領候補に指名する可能性もある。