トップの粘り強さが会社を変える
かつて、オリジナリティに富んだ製品を生みだしたパイオニアは、指名解雇という米国流の愚策を強行したことで社内の雰囲気が悪化し、それにつれて業績も下方線をたどった。会社をよくするも悪くするも、経営陣の考え方にかかっているのだ。
とはいえ、会社のカルチャーを改善していくためには、社長が粘り強く取り組むことが欠かせない。社員がどうすれば生き生きとして働くことができるか。その答えは簡単に見つからないからだ。著者が悩んだように、社員の求めるものは給与だけではなく、単に残業がなければいいというわけでもない。
コンサルタントなど外部の助けを借りながら取り組んできた、著者の試行錯誤の軌跡は、モチベーション理論の一つである、マズローの欲求5段階説を見事なほどにステップアップしたことに驚かされる。
すなわち、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認の欲求、自己実現の欲求である。働きに見合った給料を得るのはもちろん、周囲に認められたい、自分自身の能力を高めたいといった社員の欲求を満たす環境を作り上げる。これが、脱ブラック企業を果たし、優良企業を作り上げる上で欠かせない条件といえるだろう。
著者が経営する会社は従業員が35人の時点で新卒の採用に踏み切り、社内の雰囲気が目に見えて改善したという。社員に成長してもらいたい、全員が存分に力を発揮してほしいという経営者の欲求がバックボーンとなっているが、著者自身の経営者としての成長の軌跡でもある。
安倍政権は一億総活躍社会の実現を政策課題として掲げているが、掛け声倒れに終わらせないためにも、民間の取り組みを大いに参考にすべきだと思われる。