一方、リアル書店を退職後、一時期ネット書店に関わっていたのだが、そのときはまったく逆の経験をした。
ネット書店の場合、多くは1500円以上の代金で送料無料となる。ここで、たとえば1450円の本を買う顧客がいたとしよう。これがもしデパートで、外商部がからむ顧客の場合だと、「これくらいサービスできないの、私は外商の客なのよ」とゴネて、トラブルになる。ところがネットでは、そういうトラブルがほとんど起こらない。逆に、顧客の方が1500円以上の代金にするため、必至で買い足す本を探してくれるのだ。
この背景にあるのは、「人間なら融通を利かせられるが、システムは融通を利かせられない」という現実だ。そして、人は融通の利かない対象を「変えられない条件」として認識し、逆に自分自身へ融通を利かせようとするのだ。
そう、あの人は「仕方ないから」と下から諦められてしまう上司になれば、部下は自分たちで問題を解決し、成果をあげるようになっていく。何せ「仕方ない」のだ。
だからこそ、上の立場を維持したければ、目立たないよう空気のような存在であれ、というのが『老子』の教えだった。
・立派な為政者は、国民を統治しようとするときには、謙虚な態度で民にへりくだる。国民を指導しようとするときには、自分は後ろに退いていっこうに指導者ぶらない。
(聖人の民に上たらんと欲すれば、必ずその言を以ってこれに下る。その民に先んぜんと欲すれば、必ずその身を以ってこれに后る)66章
どこの職場にも居るのか居ないのか、よくわからないような上司がいるが、実は『老子』の奥義を会得して、素晴らしい生き残り術を身につけた達人……なのかもしれない。