収集することで見えてくる「世界観のようなもの」

【為末】「好きを仕事にする」ってよくありますけど、みうらさん、もともとそんなに好きじゃないというか……むしろ嫌いなものから入っていませんか?

【みうら】嫌いというか、違和感からですよね。「この違和感をどうしたらいいのか」ということですよね、いつも。

【為末】まずその違和感を収集されるんですね。

『ない仕事の作り方』(文藝春秋刊)

【みうら】そうですね。違和感にジャンルはないから、それにまつわるものを収集していくと、そこにもなんとなく世界観と呼べるようなものがあることに気がつくんです。「これはきっとこの流れでこう来たんだろう」とかね、わかるんですよ。けれども世間からしたらどうでもいいことなんですよ。俺のやっていることは基本、民俗学みたいなもんですから。

【為末】いま気になってる「違和感」はあるんですか。

【みうら】本にも書きましたけど、“since”ですね。この前“since 1628”っていう、年号で言うと元禄時代くらいの表記を発見したんですよ。先々代くらいまでは「創業」って書いてたんでしょうね、きっと。でもそこの若い何代目かが「それはオシャレじゃねえ」とか言ってね。そういう話だと思うんですよ(笑)そこにちょっとした父と息子の確執が見えたりして。かと思えば中目黒で“since 2015”っていうのを見つけたりね。

【為末】まだ1年経ってない(笑)

【みうら】できたばかりのものにsinceを付けるということは、かつて僕らが思っていたsinceの概念は既に崩壊しているんじゃないかなと。日本だけで独特の使われ方をするようになったんでしょうね。あの調子こいてた80年代のバブル時代にあった「ペンション文化」の遺産なだと思うんですけどね、sinceは。

【為末】どれくらいからつけていいもんでしょうね。

【みうら】そうですねえ、30年ぐらいやってsinceを付けるならなんとなく納得できますよね。 昭和の人間としては。「桃栗三年」ならぬ「since三十年」かな(笑)そういえば僕がはじめてsinceに気づいた1980年代の半ばあたりから、既に30年くらい経っていますよね。

【為末】そのあたりからやっている人はそろそろ使っていいってことですかね。

【みうら】ぎりぎり許されるくらいでしょうね。ところで今日、僕はヒヤシンスの球根を買いに行こうと思ってるんですよ。

【為末】ヒヤシンス?

【みうら】まだ着地点はわからないんですけど、sinceが冷えたら「ヒヤシンス」になる……そういう変化の可能性もあるのかなと(笑)考え続けているとたまに化学変化することがあるんです。僕の「ない仕事」は自分でも想像もしていなかった着地点に降りたときになんかやり切った感があるんですよね。

【為末】sinceはまだそこまでは行っていないと。そこまで飽きないで続ける秘訣はあるんですか?

【みうら】やっぱりハードルの位置を変えるんですね。他人に並ばせることですね(笑)

【為末】そういうランダムさをね(笑)

【みうら】「こんなの跳べねえじゃねえか!」っていうところがまた面白い。いつも通りいかないことを課すと、少しは飽きることのその先まで行けるんですよ。たとえば最近、ゆるキャラの横にいる「ゆる人(びと)」が気になっていて。ゆるキャラの横に連れ添うハッピを着た人がいるじゃないですか。

【為末】行政の人とか?

【みうら】今まで観光局の端で嫌々やってたかもしれない人が、女子職員からも「いいなー。◯◯ちゃんと会えて」とか言われてね。

【為末】嫌々やってたってところがいいですよね。

【みうら】そもそも仕事って大好きでやってる人は少ないんじゃないですか? 四六時中スポーツ大好きでやってる人は、立派な変態ですよ。超変態に行き着いた人たちだと思うんです。