「試合直後の一言」で流行語大賞を狙おう

【みうら】スポーツ選手って自慢をしてはいけないルールもありますよね。謙虚で、丁寧で、いつも「みなさんのおかげで」って感謝の気持ちを……。

【為末】たしかにあまりしゃべっちゃいけない感じはありますね。

【みうら】ベラベラしゃべるのも幻滅しますよね。アスリートにはいつも息が切れていてほしい。相撲のインタビューでも息が切れているから、「真剣にやったんだな」と思われるわけで。試合でもう十分、自分で自分の解説をするなということですよ。

『ない仕事の作り方』(文藝春秋刊)

【為末】流暢にしゃべっていると逆に突っ込まれたりね。

【みうら】「余裕こいてんじゃねえよ」ですよね、きっと(笑) でも、オリンピックくらいの大会のここぞという場面で何か一言決めたら、絶対に流行語とれるじゃないですか。

【為末】ですね。

【みうら】お笑いの人がいくら目指して取っても「一発屋」なんて言われるけど、アスリートは一発屋って言われない。

【為末】「超気持ちいい!」とかね。

【みうら】単語じゃなくてもポーズでもいい。もはやあれを目指してる人がいるんじゃないですか。若い人のなかには。

【為末】狙っている人はいると思いますよ。

【みうら】いますよね。「インタビューではこんなこと言ってやろう」と思って、そのことばかり考えすぎて成績悪い人もいるんじゃないですか(笑)

【為末】一説には、試合後のアスリートってアドレナリンが出まくってる状態でしゃべっていることが多いそうなんですね。そういうときは本人もよくわからない感じで話しているから、よほど用意周到に考えている人以外は結構変なことを口走ったりしがちなんです。ちょっと落ち着くとまた別の言葉が出てくる。選手のインタビューは少なくとも3回あって、1回目が試合直後、2回目が服を着替えてから5時間後ぐらいのメディアセンター、最後は成田空港とか日本での取材。だんだん言うことが変わってきますね

【みうら】時間によってね。

【為末】帰国後取材で「超気持ちいい!」はさすがにみんな変だって気づくんですけど、直後ならOKなんですよね。

【みうら】もう脳内に何か出まくっているから(笑)

【為末】本人も意図してないことを言ってる可能性はありますね。

【みうら】逆に競技終わっていきなり「要するに」っていうのは変ですよね。こいつまとめてんのかよ、みたいな。

【為末】そうですね。

【みうら】ということは「要するに」を使えば、絶対に流行語が取れるっていうことですよね。

【為末】取れるかもしれないですね。「振り返ってみると」とかね。

【みうら】「もう振り返れるんだ、こいつ!?」っていう(笑)

【為末】すごいですよね。

【みうら】優勝したあとに「本当は走りたくなかったんだ」っていうセリフはまた、語弊がありますよね。思ったとしても。

【為末】そうですね。スポーツ界のえらい人から連絡が来ちゃうかもしれない(笑)

みうらじゅん 
1958年京都市生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、漫画家、イラストレーター、エッセイスト、ミュージシャンなどとして幅広く活躍。著書に『アイデン&ティティ』、『マイ仏教』、『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著)、『人生エロエロ』、『正しい保健体育 ポケット版』など。最新刊は『ない仕事の作り方』。音楽、映像作品も多数。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。2005年 日本映画批評家大賞功労賞受賞。 
為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。http://tamesue.jp

 

(大矢幸世=構成 遠藤素子=撮影)
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