別人と間違えられても期待に応える
【為末】引退後のアスリートの活用法って何かないですかね。
【みうら】体力がまだ残っておられるだろうしね。ジジイで引退したら、やることなんて限られていくけど、アスリートの人って若く引退されるから。体力があるっていうところがちょっと面倒くさいですよね。それはもう、クラブ通いになっちゃいますよね。今までやってなかったことを……と、性の方に行く人はいるんじゃないでしょうかねぇ?
【為末】「クラブ違い」ですね。僕が思うにいちばん壁になっているのは「選手のプライド」なんです。スポーツの世界は現役のときと引退後で扱いが全然違うので、プライドがあると厄介なんです。
【みうら】落差がつらいってことですね。
【為末】そうです。会社員として上司から「お前、営業してこい」と言われる世界と、居酒屋で「ずっと応援してました!」と言われて握手を求められる世界を同時に生きるのはしんどいんですよ。いずれ握手も求められなくなるんですが、しばらくはそういう状態が続きます。そう考えるとその人のスポーツ選手としての名声を誰も知らない国で暮らしたら楽かもしれませんね。
【みうら】なまじ知られてるからつらいと。
【為末】そうなんですよね。それに悩む人は多いです。でも「みうらじゅん」という人生もこれだけパブリックになってしまうと、「ミーハーなものに乗りにくい」みたいなところはありませんか?
【みうら】そんなふうに言われることもあるんですけど、僕の場合は、どこかのおばさんだとか、まったく別人に間違えられることも少なくないんですよ。そういう場合もそれなりに対処していかなきゃならない、というところのほうがきついですね。そこで邪険に「違うよ」って言うのも、なんか妙にプライドがあるような気がするので、なりきるじゃないですか。
【為末】なりきるんですか!?
【みうら】そこは仕方なく。
【為末】パブリックなイメージとご自分は、だいたい重なっているんですか?
【みうら】おそらくパブリックでは、自分の仕事と普段の生活が一緒だと思われがちなんですけど、残念なことに実際、同じなんですよ(笑)それってつまんないじゃないですか。「普段はものすごい生活をしている」とかじゃないと、面白みに欠けるので。
【為末】実はあの人……みたいな。
【みうら】「本当はあの人、銀座でブイブイ言わせてるから」のほうが、「ええーっ?」ってなるじゃないですか。やっぱりその期待にも応えなきゃならない気もしていて。
【為末】そういう期待にも応えようとされてるんですか。