またオランダやカナダなどでは「ハーム・リダクション」という取り組みも行われています。これは公的機関が違法薬物の使用をコントロールするもので、違法薬物が摂取できる場所を公的機関が設ける場合もあります。清潔な注射針や医師の待機する場所を用意することで、HIV感染などの健康被害を防ぎながら、依存症の治療を目指します。

この機会に考えてほしいのは、違法薬物に対する政策を「イデオロギー(思想)」と「サイエンス(科学)」のどちらで決めるのかということです。科学的な事実に則して考えれば、刑罰を科すだけでは、社会的なコストは増すばかりです。

薬物依存症の患者は、病気だけでなく、社会の偏見にも苦しんでいます。アメリカのオバマ大統領はかつて大麻使用者だったことが知られており、14年1月には米誌『THE NEW YORKER』のインタビューで、「私は子どもの時に大麻を吸ったことがある」と、その事実を公に認めました(※2)。 現在の日本で「私は薬物を使用していた」と告白することは、非常にハードルが高いと思います。しかし薬物依存症は回復可能であることを知ってほしいのです。

治療には専門家の助言が欠かせません。特に家族が正しい知識を持つ必要があります。違法薬物について医療者に警察通報を義務付けた法令はありません。各都道府県にある「精神保健福祉センター」では、所属する医療者が秘密を厳守して相談に乗ってくれます。治療の第一歩は「クスリをやりたい」「使ってしまった」と本音で相談すること。迷ったときは相談してください。

※1:厚生労働省「主要な国の薬物別生涯経験率」。このほかドイツは大麻が25.6%、覚醒剤が3.7%。フランスは大麻が32.1%、覚醒剤が1.7%。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakubuturanyou/torikumi/
※2:On and Off the Road with Barack Obama - The New Yorker
http://www.newyorker.com/magazine/2014/01/27/going-the-distance-david-remnick

(小泉なつみ=構成)
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