日本では薬物事犯のほとんどが覚醒剤です。警察庁によると2014年の薬物事犯による検挙人員は1万3121人。このうち覚醒剤は83.5%を占めています。

薬物は効果の種類に応じて、大きく2つに分けられます。ひとつは大麻やヘロインなどの「ダウナー系」。気分を落ち着かせる作用があり、強い身体依存があります。このため摂取を中断すると頭痛や痙攣などの禁断症状に見舞われます。

もうひとつは覚醒剤に代表される「アッパー系」。気分が興奮し、集中力が高まる気がするそうです。特徴は禁断症状がほとんどないところ。だから最初は「週末だけ」とか「パーティーの時だけ」などとそれなりにコントロールできるのですが、徐々にハマってしまう。

薬物被害の最もおそろしい点は、本人の価値観の序列を変化させてしまうところです。これまで自分にとって大切なものは家族や恋人、友人、仕事、財産、健康だった。ところが気付くと薬物が最上位になり、薬を使える仕事、薬を許してくれるパートナー、薬を見逃してくれる友達などを選んでいる。すると自分らしさがなくなり、周りから「別人になった」といわれるようになります。

薬物乱用者といえば、目はくぼみ、頬はこけて、髭は伸び放題。いかにも不健康でだらしないタイプを想像されるかもしれませんが、実はそういう例は稀です。一見すると、おしゃれな身なりをし、健康そうです。仕事もきちんとしていて、なかには「ワーカホリック(仕事中毒)」にみえる人も少なくありません。

きっかけは拍子抜けの初体験です。たばこやお酒が最初からおいしくないのと同じで、使ってみると大したことはない。世間で言われるような怖いことも起きない。「自分ならコントロールできる」と思うわけです。

たとえばワーカホリックの人は、ストレスを感じないと信じ込んでいる。でも本当はストレスで集中力は落ちます。そこで薬を使うと集中力が高まる。寝ずに仕事ができる。成果を出そうと薬を使う。そうすると薬を使っていない時間が辛くなる。その辛さをやわらげるために、また薬を使う。快楽ではなく苦痛の緩和のために薬物にハマっていくのです。