そのような、至れり尽くせりのサービスを提供していながら、決して「押し付け」ではない。毎日の食事やエンターテインメントの予定は、前日に各客室に届けられる船内新聞で案内される。乗客は、それを眺めながら、さて、明日はどのようなスケジュールにしようかと、自分で考えるのである。

飛鳥のオペレーションは、「お任せ」の気楽さと「選択」する喜びの絶妙なバランスで成り立っている。自分で何を食べようか、何を見ようかと考えるのは面倒くさい。かといって、すべてが決められていると、息苦しくなる。「お任せ」と「選択」の配合の割合は、長年の経験に基づいた、1つのノウハウだろう。

「お任せ」と「選択」のバランスは、さまざまなビジネスシーンで共通する課題でもある。例えば、教育を産業として見れば、いかに基本を教えるかという「お任せ」の部分と、学ぶ者が自らその内容を決める「選択」の均衡が欠かせない。

テレビや新聞、雑誌などの伝統的メディアと、インターネットの関係も、「お任せ」と「選択」の割合という視点から見ると面白い。ネットには情報があふれているが、選ぶのが面倒だという人もいるだろう。その意味ではテレビの気楽さは魅力だが、そればかりだと飽きてしまう。

飛鳥の船旅が、長い期間乗っていても飽きない「お任せ」と「選択」の絶妙なバランスを実現していることは、多くのビジネスにとって参考になると実感する。

目が覚めてから眠るまで、1日中、しかも何日もそれを繰り返してずっと楽しいという飛鳥は、1つの究極のサービスのかたちである。

(写真=PIXTA)
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