クリントン候補がTPP反対を公言した理由

そもそも、関税等の国家の介入を排除して物とカネを行き来させる自由貿易と、その真逆である保護貿易は、どのような得失を伴うのか。経済学の世界では、この問題について19世紀初頭から現在まで、約200年にわたる議論が続けられてきた。

19世紀の英国の経済学者デビッド・リカードは、「各国がそれぞれ優位性を持つ産品を輸出し、そうでない産品を輸入することで、全体としての経済厚生は高まる」と説く、「比較優位の原理」を唱えた。

この原理は現代でも有効だ。貿易の盛んな二国間において、もし一国が自国の弱い産業を保護すべく関税障壁を設ければ、相手国も同様に、弱い分野の関税を上げるだろう。その結果、両国間の貿易は全体として縮小し、2つの国の経済はどちらも不利益を被ることになる。

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“合理的判断”が損を招く「囚人のジレンマ」

相手を信頼せず、自らの目先の利益を守ろうとすると、互いに協力すれば得られたはずのより大きな利益を失ってしまう……ゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」である(図参照)。

反対に、両国が「自由貿易は全体としてお互いの利益になる」ことを信じて、国内の一部の産業の損害を受け入れて全分野の関税を引き下げれば、両国の経済はそれぞれの得意分野にシフトしつつ、全体としてどちらも発展することになる。

とはいえ、保護状態から自由化が進むと、他国産業との競争により、比較優位のない産業はどうしても不利益を被る。日本でいえば、米作や畜産業などがそれに相当する。

不利益を受ける分野については、給付措置などにより救済しつつ、国全体として経済活動を活発化させ、日本のGDPを増やしていくことが必要だ。これは純粋な経済学というよりは、政治経済学の問題であり、大筋合意後の重要な問題である。