全役員が週4日の稲盛道場で猛特訓

【意識】リーダー教育の開始までに残された日数は1カ月もなかった。それまでの常識では、1カ月前に役員のスケジュールを、しかも月の17カ所も押さえることは到底考えられませんでした。大田さんには正直に可能なのは週1回と伝えたらすぐ突き返され、週2回では、と言うとやはり駄目で。最終的に週4回。内心、えらいことになったと思いました。役員の皆さんに週4の打診をしても、「出られるわけない」と一蹴されるに違いないと覚悟していました。ところがです。蓋を開けてみると、リーダー教育初日の欠席者はゼロ。役員・部長級52名全員参加。以降も、出席率99%。このことがJAL再生の足がかりになったと感じます。

【常務(1)】そうですね、今思えば、1カ月で17日間集中してリーダー教育したことが功を奏したのだと思います。

【専務(京セラ)】やはり週1回でなくてよかったです。当時、役員の皆さんは稲盛さんの話をたっぷり聞いて「頭の中が稲盛さんで充満」になったうえに、宿題(翌日提出が義務付けられたレポート)や、予習(その日の議論内容の準備)もあった。それを週4で続けたことで心の中に変化が生まれたのです。週4を実現できたのは大西社長(現会長)の存在が大きかったです。大西さんの「(週4で)わかった、やりましょう」の一言が私の心の支えでした。

【会長】あの頃、稲盛さんから社員一人一人の意識や考え方、価値観が揃ったところから全社的なフィロソフィ教育を始めることが大切だということを繰り返し言われていました。だから、何とか自分たちの手で基礎をつくろうと、そのリーダー教育を受けたなかから私が10人を指名してJALフィロソフィづくりを始めたんです。

稲盛名誉会長とともに改革を果たした大西賢会長(左)と植木義晴社長。

【広報】ところで、稲盛さんと役員が酒を酌み交わす「コンパ」もリーダー教育成功の要因のひとつでしょうね。

【専務(京セラ)】でも最初は「コンパみたいなのは困る」と拒否されたんですよ。

【常務(1)】私もコンパには違和感がありました。社員が必死に仕事し、また会社を去らざるを得ない社員もいるなかで、役員が酒を飲むのはいかがなものかと。本音で議論するとはいえ……。

【専務(京セラ)】私は野村さん(意識)に言いました。「意識改革はコンパ込みです。意識改革が成功したらメディアから取材が殺到するはずだ。あなたは今、歴史的な仕事をしているんだ」。すると、野村さんは目を白黒させて、「そうでしょうか……」と自信なさげでしたが、その後、コンパ文化は社内にすっかり定着しました。私にとって印象的だったのは、合宿スタイルで長時間行ったリーダー教育です。あれは、JAL再建のプロセスの記念日的な意味があると私は思っています。