フィロソフィ手帳が「撮影禁止」の理由

【専務(京セラ)】破綻の前と後を比較すると面白いことに気づきます。以前のJAL社員は能力と努力なら、皆能力のほうに重きを置いていた。能力がある人が素晴らしく、努力をする人は格好悪いと。破綻後、それが大逆転した。努力は立派なこと、能力があるだけじゃ甘いと。そんな価値観へと変貌した。社章をつけたり、フィロソフィのスローガンを貼ったりすることに最初は抵抗感があったけれど、最近はそういうことを馬鹿にする人間こそ格好悪いと。また破綻前は「仕事は好きだけどJALは嫌い」という社員が多かったけれど、今は社員全員が会社と仕事の両方に誇りを持っていると感じますね。

▼メディアは、JALには一体感が生まれ、社員のベクトルが合ってきた、としきりに言う。この座談会に参加した役員や管理職は、それは一面正しいが、少しニュアンスが違う面もある、と本誌に語った。「一体感というと、和気あいあいのイメージでしょうが、全然違います。実は破綻後に社内での“ケンカ”が増えました。導入された部門別採算制度によって会議数が多くなり、人と人が接する機会が増えました。“自ら燃える”とフィロソフィにあるように本音でぶつかるから議論も白熱するんです」(広報)。エリート意識をかなぐり捨て、がむしゃらに働き、議論する。これぞ稲盛が3年前の会長就任時に社員に望んだ「格闘技にも勝る燃える闘魂」だったのではないか。

社員全員が「その存在で1つになれた」と語るフィロソフィ手帳の40項目はJALのHPから見ることができるが、社員の魂が入った項目ごとの詳細な文書は、一切非公開。撮影も禁止とされた。なぜなら、それはJALのバイブルであり、稲盛の「叱責の真髄」でもある、いわば「JAL奇跡の再生」のヒントが凝縮された特許並みのお宝手帳であるからだ。

(文中敬称略)

JAL「奇跡の再生」までの主な道のりと取り組み
(堀隆弘、キッチンミノル、若杉憲司、小倉和徳、室川イサオ=撮影)
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