▼稲盛側と役員側にはどうしても相容れない何かがあった。そのことを「心の経営」と題する社内文書で稲盛自身がこう述べている。

「JALの役員は東大出が多く、私のような地方大出身のもともとは中小企業の社長のようなタイプとは全く違います。自分たちは最高の高等教育機関で経営学を学んだと自負していて、『人として何が大事か』というような私の哲学をすんなりとは受け入れません」

稲盛が心底驚いたのは、JALの役員が「霞が関のエリートのような連中」で「利己の心で利他の心がなく」、会社・社員のために必死に働く者がいなかったことだ(同文書より)。倒産したにもかかわらず、その原因を「テロ」や「リーマンショック」など自分以外に求め、責任逃れをする甘ったれた精神が蔓延した社風や企業文化を一からつくり直す必要性を痛感したというのだ。

【広報】10年6月に意識改革に不可欠な「リーダー教育」の開始を検討しようとした際にも、「リーダー教育ってなんだ? マネジメント教育の間違いじゃないですか」とそのコンセプトを理解しようとしなかった役員が多かったですね。上が下を管理するための教育ではなく、「部下を引っ張るリーダーを育てる」という話を何度も粘り強くしているうちにようやく納得していったという経緯があります。今、業績が上向くなかで、この最初の「リーダー教育の成功」「役員のリーダーとしての考え方の共有」が再建への大きな布石になったと感じます。

【専務(京セラ)】実はリーダー教育を始めるときに、「講師は外部の先生を呼びたい」という意向の役員が多かったんです。以前はそれが普通だったようです。私は「京セラも自分たちで講師を育てた。自社の文化は自社でつくるべき。JALの文化はJALでつくらないと根付かない」と何回もお話ししました。

【広報】そのリーダー教育をする頻度ですが、「月火水木金土の週6日のペースで約1カ月間やりましょう」という稲盛さんと大田さん(専務)の提案に対して役員側は当初「週1回にしてほしい」との回答をしたと聞いています。その後、この大きな開きは、結局、週4回(1カ月17回)で落ちつきましたが。

【常務(1)】週6は難しい、週1が限度、という意見に私も当時賛成しました。その頃、特別早期退職の募集というJAL史上初の極めて厳しいお願いをするタイミングを控え、そちらにかなりエネルギーを注いでいました。日々の任務に1ミリのすき間もなかった。企業再生支援機構もリーダー教育は先延ばししてほしい、と。だからリーダー教育は週1回が無難に感じました。